第37話 冷酷なる犯罪者

5階層


ダンジョン攻略から1週間。


ライズ達は、初めて訪れた階層にて無惨な光景を目の当たりとする。


「ひっ!?何これ……!」


ユティアが口を手で覆う。


5階層の部屋の1つ……そこには、おそらくパーティだったのだろう4人分の死体があった。


全て、首を切断されている。


流れて固まった血液よりも、死に際に浮かべたのだろう恐怖が張り付いた顔が、今晩の夢に出て来そうだった。


(この階層にはゴーレムしか出てない……刃物を扱う魔物がいない以上、これは……)


ライズは死体の1つに近付いて、首の断面を凝視した。


「ち、ちょ、あんた、何してんのよ!?

こんなグロいところ逃げるわよ!」


ユティアが騒ぐ。


「待って、その前に鑑定するから」


いっそ芸術を思わせるほどに乱れのない傷口。


(間違いなく、これは魔物がやったものじゃない。

人間の仕業だ……!)


さらに、他の死体も調べてみる。


(幸い……なのかな、監視役はいなかったみたいだけど)


服も漁ってみるが、金目の物が盗られた様子はなく、強盗殺人ではないらしい。


「うっひょお!やっべぇ、これダイアモンドゴーレムじゃん!」


場にそぐわぬ歓喜の声を上げたのはリースレットだった。


部屋の中央には、ダイアモンドで出来たゴーレムの死体が首なしで転がっている。


(ゴーレムまで首なし……でもこっちは傷も多いな)


他の遺体が、狙ったように首を切断しているのに対して、このゴーレムは余程の苦戦を疑わせる傷が身体のあちこちにあった。


「あ〜、でも全部メッキかぁ。

1番良いとこだけ持って行かれたなぁ」


「1番良いとこって、どういう事?」


「宝石系のゴーレムは、実は身体全部が宝石で出来てるわけじゃないって事。

本物なのは身体の一部だけで、他は魔力を纏ったメッキなの。

まぁ、メッキでも魔力付きだし、けっこう良い金になるんだけど」


「へぇ……ニーシェが喜びそう……」


ユティアが興味津々に近付いてきた。


「ふむ、宝石の切り取られたゴーレムに死体……という事は、犯人は宝石を採取する冒険者に目を付け、殺したという事か?」


アリスティアも人による殺害だと判断したらしく、そう推測するが……


「いや、だったら強盗殺人だよね?

それなら死体が一切荒らされてない理由にならないよ。

むしろ犯人側が、宝石を採取したところを襲われたんじゃない……かな……?」


「なぜ最後、語尾弱くなった?」


「いや、だってこの推測だと、ゴーレムの傷に理由が付かなくて……。

人の首をここまで斬り飛ばせるような人間が、動きの遅いゴーレム相手にここまで苦戦するかなって……」


「そんなん、ライズんみたいにすばしっこくて対人には強いけど防御力が強いモンスターには弱いってタイプだったんでしょ?

それより魔力メッキ剥がすの手伝って〜」


「あ、ちょっと!片っ端から取らないでよ!

ちょ、さり気なく胴体を仕舞おうとするな!」


リースレットとユティアはゴーレムの魔力メッキを採取するのに必死になっていた。


(死体よりも犯人よりも素材って……まぁ、らしいっちゃらしいけど)


ライズはかぶりを振った。


4人もの人間をいとも簡単に殺した謎の人斬り……その存在を頭の片隅に書き込んで、ライズはゴーレムのメッキ剥がしに協力するのだった。

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