第38話 賭け事は大人になってから

「ん、良い素材、ありがと」


ユティアからダイアモンドゴーレムより採取した魔力メッキを受け取ると、ニーシェは大事そうに抱えて部屋の隅へ戻って行った。


「何かの動物みたいなんだけど。

人参にんじん与えたら食べるかな?」


興味深そうにニーシェをジロジロ見つめるリースレットに、


「馬かうさぎじゃないんだから。

大体、別にニーシェだって遊んでるわけじゃないし」


ユティアは咎めるように言った。


「ふむ、確かに、替えの服は綺麗になっとるの……」


ダンジョンへ向かう前にニーシェに預けた服は、綺麗になって部屋の真ん中に畳まれていた。


「ユティア、これ」


ニーシェはユティアに、ガラス細工のような装飾の付けられた指輪を渡す。


「うっわ、可愛いんだけど!

あんたこういう仕事出来るわよねぇ」


「えっへん、褒めて」


「お〜、よしよし」


ユティアに頭をワシャワシャと撫でられ、ニーシェは目を細める。


「うん、ありゃ馬でもうさぎでもないわな。

犬だ」


リースレットはそう結論付けた。


「でも、ダンジョン攻略にアクセサリーっていらなくない?

盗まれるリスクもあるし、金目の物だと思われたら襲われるし、一利ないと思うんだけど」


ライズが言うと、ユティアは「はぁ」と盛大に溜息を吐く。


「分かってないわねぇ、これだから見た目だけ女は……。

必要のあるなしじゃないの、可愛い小物を身に付ける、これだけでも女っていうのは心を安定させられるのよ。

酒や賭博と同じ」


「たぶん今現在、国民中の女性が猛反対してると思う」


「それに、別に役に立たないわけじゃないわよ。

これ、微量だけど魔力強化のバフ付きだし」


「は?」


「ニーシェは付与魔法が得意なのよ。

素材に影響するところは大きいけど、たぶんこのダンジョンの犯罪冒険者でニーシェのアイテム買ってない奴っていないわよ?

あたしも、ここに送られて何度かこいつにアクセ作ってもらったし」


ほら、とユティアはフードの結び目に付けられたブローチを指差した。


青い石の粒で装飾されたブローチは確かに彼女の衣装にもマッチしていた。


「小物作りは、好きだから」


「ふむ、なんとも器用な……この細工も見事だし、まるでドワーフのようだな」


アリスティアが感心し、ユティアの指に嵌められた指輪を興味深く見る。


「武器は嫌い。汚れるし、無骨だし、可愛くないから絶対作らない」


ニーシェはムスッ、として反論する。


ドワーフは鍛治の妖精と言われ、武具を作る事に長けた存在だと言われている。


だからこそ、武器を作るような妖精と同じにするな、という事なのだろう。


「それより、良い装飾思いついた。

素材買いたいから、お金欲しい」


「前触れないわね!?

別に良いけど。ただし勝てたらね!」


ユティアはニーシェの前に胡座を掻いて座る。


「えっと、ニーシェ?何するつもりなの?」


「何って、賭博よ、賭博。

こうやって暇な時とか金が欲しい時は賭博するのがうちの部屋の決まりだから」


「……18歳未満の賭博って違法だけど?」


「ハッ、今更あたしに遵法精神があると思う?」


「ないだろうね」


もういさめるのは諦めた。


ニーシェは魔力メッキを横に置くと、代わりにサイコロ2つと木製のコップを取り出す。


「?賭博って、トランプ使うんじゃないの?

ブラックジャックとかポーカーとか」


「無理よ、あたしルール知らないもん。

ポーカーとか役覚えるのクソ面倒なんでしょ?」


「わたしも、知らない。

知ってるの、半丁だけ」


「半丁?」


「日の国でやってる賭博。

サイコロの合計値が奇数か偶数か選ぶだけ」


「簡単でしょ?」



「日の国でも、今は違法行為になってる……けど」


「君ら余罪積み重ねるのに躊躇ためらいないよね……」


呆れるライズを他所よそに、2人はポーチから金目の物を取り出し合いながら半とか丁とか言いながらアイテムを取り合い始めた。


「なんだか、こんな光景を見てティナがどう思うか心配だよ」


「意外と安堵するのではないか?

妹が元気そうで良かった、とな」


「まぁ、確かに元気ではあるよね。

……いっそ、普通過ぎるぐらいに」


散々、親に捨てられたくない、国民に軽蔑されたくない、罰を受けたくないと恐れていた割には、今のユティアは何だかんだで現状を受け入れ、楽しんでいるようにすら見えた。


(まぁ、喉元過ぎれば熱さ忘れるってやつかもしれないけど)


「あぁ……!あたしの魔石ちゃんがぁ!」


「まいどあり……☆」


過去なんて忘れました、と言わんばかりにエンジョイするユティアに、ライズはムズムズしたものを感じるのだった。

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