第39話 一方の王城では
ティナシア・ヒーリンレイスは王城を訪れていた。
聖女の
今は神殿へ入り、お祈りや勉強に精を出しているが、その合間のお誘いである。
「お兄ちゃんはまだ帰って来ないんですね……」
「王子を前の第一声がそれなんだね。
残念な事に、ね」
ティナは談話室にて、レオンと2人きりとなっている。
「それで、話というのは?」
「あぁ、薄々あるんじゃないかと思ってたけどね……実は、うちの大臣どもから、聖女とのお見合いをするように持ち掛けられて。
……僕と婚約するかい?」
「ごめんなさい無理です」
「いっそ清々しいほどの即答だね、まぁ想定してたけど」
レオンは肩の荷が降りた、と言わんばかりにソファーで
「まぁ、テレビで見る限りは順調そうだよ。
有料放映の収入も好調だし、SNSの搬入も昨日からスタートした」
「えっと、SNS……ですか。
確か、遠い場所にいる人に言葉を届ける魔法道具……ですよね?」
「そんな認識で間違いないよ。
国民同士の言葉を繋げる事でこのダンプロ熱をさらに高めるって父上は言ってた」
「でも高いんですよね?
そんなにたくさんは搬入出来ないんでしょう?」
「まぁね、だから王国と神殿、ギルドみたいな大きな組織以外の貴族や平民には、抽選配布する事になる。
好評だったら後々、追加搬入もするけどね」
ちなみに、SNSの本国である魔法の国において、SNSとは言葉を繋げるツールとしてだけではなく、声を届けたり映像も映したりカメラやテレビの代用も出来るハイスペックなものである。
しかし、赤字国家のフランにそんな最新機種を国民の分も買える金などあるわけもない。
搬入するものも、魔法の国では型落ちした安物であるが、それはわざわざ知らせない。
「後は、国民アンケートでお気に入りの犯罪冒険者を決めて、上位陣のグッズを作るって試みも進行中だね。
人気なのはライズやアリスティア……出で立ちが目立つ影響かもだけど、コトブキ・マカベも男性を中心に人気だね。
……ちなみに、犯罪冒険者限定の投票のはずなのに君の名前を答える人も少なくなかったよ、愛されてるね」
「わ、私ですか!?」
「こちらとしては国民のニーズには応えたいところだし、君と神殿の許可さえあれば作りたいんだけど」
「で、でも、私なんかより、お兄ちゃんのグッズを作った方が……」
「当然、ライズのグッズは気合を入れるよ。
なんなら製造前から使用用、観賞用、保存用、予備用で4つずつ予約してるからね、僕は!」
「ちょ、それ職権乱用です!
私にも予約させてください!」
「残念ながら、予約はグッズ販売決定日を公開してからだ。
それまで待っていてくれ」
「むぅ、お兄ちゃんのグッズ……」
全身から欲しいオーラを
愛するいもう……弟を愛する者に、悪人はいない。
それがレオンの持論だった。
(まぁ、問題は、彼女のライズへの好意は兄妹的なものというよりも……)
「それはそうと、ユティア・ヒーリンレイスについてだけど。
思ったよりもエンジョイしてるみたいだね。
君としては複雑だろう?」
「はい……でも、どっちかというとホッとした気持ちの方が強いです」
「ホッと……?」
「なんだか、昔のユティアに戻ったなって……聖女だった時のあの子は、無理してたから」
「本来はああいう性格だったと?」
「まぁ、そうですね。
元々、普通の子だったんです。
最初に、私に禁術を使ったのも、両親に捨てられたくなかったからです。
その気持ち自体は分かるんです、あの人達は、怖いから……。
使えない人には、本当に容赦がないから……」
「それで、一度使えば取り返しがつかなくなりズルズルと……か」
背景を知れば、気持ちは分からなくもない。
それでも許せる事ではないが。
「謝って欲しいと思うか?」
「え?」
「当然、許されるべき事ではない。
それでも、許されてはならない罪だとしても、僕は謝罪すべきだと思う。
それが、罪を負った者の贖罪であり責務だと思うからね」
許したくないと却下され、時には殴られ、暴言を吐かれる可能性があったとしても。
それを受けるまでが、罪を負った者の責任だと、レオンは考えていた。
「……はい、欲を言えば、ですが。
でも、それはないと思います。
あの子は臆病だから……きっと、もう私には会いたくもないと思いますよ。
誰かの人生を奪って、殺そうとした罪……それと正面から向き合うなんて、あの子に耐えられるわけないから」
だから、今のままで良いのだと、ティナは小さく微笑んだ。
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