第56話 エヴァンエテル家に行こう③

リースレットは裏庭を訪れる。


姉はこの時間帯は大体はここにいる。


花壇には花がいっぱいに植えられ、それを眺めながら紅茶を飲むのが彼女の趣味だ。


「チッス、姉貴。もう帰って良い?」


「話があるって呼び出したの、お父様から聞いてなかったの?

勝手に帰ろうとしないで、ほらそこ座って」


姉、ルージュリカに勧められ、リースレットは渋々ルージュリカと向き合う形で座る。


遠慮なしにスコーンを口に入れてから


「んで、話って?」


「なぜ、王家の秘宝を盗んだのか。

そして、盗んだ秘宝をどこへ隠したか、よ。

あとは謝罪要求かしら、あなたのせいでうちの評判に悪影響があるんだから」


「評判なんて今更じゃね?

大体、謝ろうが何しようが、あたしは改心する気も自分の生き方を変えるつもりもない。

それで謝罪って意味ある?」


悪びれもせず言うと、ルージュリカは溜息を吐く。


「相も変わらず……。

ま、そこは今は置いとくわ。

それで、王家の秘宝を盗んだ理由は?」


「ん〜……なんとなく?」


「王家の秘宝はどこに隠したの?」


「この世のどこか」


「あなた、ふざけてるわね?」


「あはは、そう簡単に教えるわけないじゃーん」


馬鹿にしたようにふざけるなリースレットに、ルージュリカは眉間に皺を寄せる。


「王家の秘宝は、身の丈ほどの大剣だと言うわ。

それほどの代物なら、隠し場所も限られそうね」


「何?

揺さぶって口滑らせようって?」


「あなたの部屋を漁っても、借りていた研究室を漁っても、秘宝は出なかったわ」


「そりゃご苦労様、ま、ヒントだけあげると、姉貴達には絶対に分からない場所……かな。

何なら、答えを知ったとしてもレオン達には手も足も出ないよ」


「様を付けなさい。

……それで、その場所というのは?」


「それ以上は自分で考えてよねー。

あたし、かなり譲歩してるよ?」


スコーンを口に運び、これ以上は教えないと意思表示する。



「久しぶりだね、ルージュリカ」



まるでリースレットとの話が一区切りついたのを見計らったかのように、裏庭に新たな来訪者が現れた。




ライズはレオンと共に裏庭までやって来る。


途端、ライズは心臓が大きく高鳴った。


真紅の髪、快活とした雰囲気の顔立ち、服装は魔術師のローブとドレスを合わせたようなもので、豊満な胸元を惜しげもなく露出し、スカートにも深いスリットが入っている。


一言で言えば美人。


しかし、美人なだけならライズの周りには美人などたくさんいる。


リースレットもアリスティアも美人と呼べる顔立ちだし、ティナもユティアも美少女と呼べる顔立ちだ。


それでも、ライズは彼女から目が離せなかった。


胸が苦しくなって、無条件に抱きつきたくなった。


(なんで、私はこんな事を考えて……)


「ライズ、紹介するよ、彼女がルージュリカ・エヴァンエテル。

このエヴァンエテル家の時期当主でリースレットの姉に当たる」


「初めまして、ルージュリカ・エヴァンエテルよ。

うちの愚妹がお世話になるわね」


「っ、は、はい、私はライズ・リーディットです。

不束者ですが、よろしくお願いします」


レオンの言葉でハッとし、すぐに挨拶を返す。


「不束者ですがって、結婚初夜みたいだね」


リースレットがからかう。


「ち、ちょ、違うから!

語弊を招く事言わないでよ!」


「ってかさ、ライズ……顔赤いけど、もしかして姉貴みたいなのが好みなの?

巨乳好き?あ、でもそれなら寿の事も好きなの?

確かにライズ、寿には結構優しい気が……」


「だから、変な事言わないでよ!

そんなんじゃないから!」 


「あら、ライズ君みたいな格好良い男の子に一目惚れしてもらえるなら、私もまだ捨てたもんじゃないわね」 


リースレットを諫めるかと思われたルージュリカは乗ってくる。


「格好良い?いや、ライズってどう見ても可愛い系でしょ?」


リースレットが怪訝な表情で言うと


「そう?

確かにテレビ越しに見てた時は可愛い子が頑張ってるなって思ったけど。

でも実際に会ってみると、結構ちゃんと男の子なんだなって思ったわよ?」 


(格好良いとか、初めて言われたな……)


ライズは照れる。


昔から、可愛いなんて腐る程言われて来たけど格好良いなんて言われた事はなかった。


「あ、すみません、立ち話なんてさせて。

お2人も座ってください。

陛下はこちらに。

ライズ君もどうぞ」


「では、お言葉に甘えて」


レオンの返事と共に、2人は席に座った。


それから、4人でしばらく駄弁る事になったが、ライズはやけに落ち着かない気持ちになり、どんな会話をしたのかほとんど覚える事は出来なかった。









____

あとがき


54話と55話でルージュリカの名前を別表記してしまいました、誠に申し訳ありません。

現在は訂正しました。

リースレットの姉はルージュリカのみであり、3人兄妹という事は一切ございません。


土の迷宮編も僅かとなりましたが、この章が完結した後はしばらく更新停止すると思われます。

創作熱の低下やネタの減少、コンテストの準備などの理由ですが、ある程度ストックを貯めた後に再開する予定です。

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