第57話 姉と妹➀

エヴァンエテル家から戻り、それから2ヶ月が過ぎた。


その間、ライズ達は訓練に訓練を重ねていた。


そして


「そろそろ、ダンジョン攻略に乗り出しても良いかな?」


「そうですね、私は問題ありません」


レオンとライズの会話から、近いうちにダンジョン出立が決まった。


あれこれと入念な準備を考慮しても1週間。


それはアリスティア、リースレット、ユティア、寿、ニーシェの5人にも伝えられた。


ちなみに、恩赦を貰ったはずのニーシェもダンジョン攻略には付き合う事となった。


本来恩赦を貰ったはずのライズとアリスティアが迷宮攻略の筆頭になっている事、迷宮素材を求めるニーシェには迷宮暮らしが性に合っている事、国営放送で国民にドワーフであると知られたせいで日常生活を送ろうとしてもあれこれ騒がれてウザい事、が主な理由である。


(まぁ、頼りにはなるから良いんだけどね)


今日は闇魔法の魔術書でも読んでみようかと図書室を訪れて、ライズはそんな事を考える。


準備と言っても、ライズは仕事道具に関してだけは手抜きしないので出動要請が架かればいつでも仕事に行けるのだ。


なので本を読むゆとりもある。


図書室へ訪れると、そこではユティアが隅の席で熱心に本を読みながら何かを書いている。


「勉強?」


「ひゃあ!?」


声を掛けられたユティアはビクッと肩を震わせて本と紙を隠す。


「な、何よ!?急に話し掛けないでよ!?」


「聞いただけでしょ?

それに、咄嗟に隠すなんて何かやましい本でも読んでたの?」


「あ、あんたには関係ないわよ、あっち行って」


「そう言われても行くとでも?」


ハッキリ言って、ライズはユティアを信じていない。


実際に仲間として見れば、性根から悪人というわけではないのは分かる。


それでも、姉を貶めて聖女を騙った事は変えようのない事実なのだ。


明確な悪意と自分勝手な理由で他人を傷付けられる人間を信じられるわけがない。


「ダークボール」


ライズはユティアに闇の玉を投げ付けた。


「ちょ、おわっ、あぶなっ!?当たったら痛いじゃないのよ!?」


ユティアは咄嗟に躱し、その隙に彼女が隠した本を抜き取った。


「別に、威力は抑えてたよ。

図書室の人に迷惑掛けたいわけじゃないし」


本のタイトルを見る。


そこには


『誠意の伝わる謝罪文の書き方』


「は?」


「か、返してよ!」


ユティアは本を取り返し、胸に抱える。


テーブルの上の紙には、確かに謝罪文らしきものが書かれていた。


(まぁ、この女が謝罪する相手なんて1人だよなぁ)


「ユティア」


「なによ?」


「謝罪は手紙より直接言うべきだと思うんだけど?」


「い、言えるわけないでしょ!?

あ、あいつ、神殿住まいなのに!あたしなんざ門前払いよ!」


「だったらティナから城に来てもらえば良いだけだよね?

あの子なら、頼めば来てくれるよ?」


「普通は、王家の城にそんな簡単に人を招くなんて考えられないわよ」


「だったら私から手紙を出そうか?

ティナに話があるからって」


「い、いや、そこまで手を煩わせる訳には……」


「君、そんなの気にするタイプだった?」


ユティアは口を噤んだ。


きっと、怖いのだろう。


ティナに謝罪する……それは、自分の罪を自分で認めて、自分を罰する行為だ。


怖くないわけがない。


むしろ、怖いのが普通だ。


謝れば許してくれる、なんて前提の謝罪なんて謝罪じゃない、「謝ってんだから許せ」と命令しているだけだ。


「……ユティア」


「何よ?」


「なんで、ティナが私の事を兄って呼んでると思う?

あの子、本当の意味での家族がいないんだよ。

出会ったばかりの暗殺者なんかを兄だと慕うぐらい、彼女は自分の家族に期待してないって事」


「っ!」


ユティアの肩が震える。


親は、娘を能力でしか判断しない厳しい人間で、妹には9年も虐げられた。


ティナにとって、実の家族なんて真っ当な家族ではないのだ。


「君の苦しみは僕にはどうでも良い、僕は君とティナならティナの味方をしたいから。

でも、だからこそ、ティナが苦しみはどうにかしたいって思う。

君を許すか罰するかはティナの決める事だけど、君が何もしなかったらティナは、実の家族には二度と期待しない気がするから」


ティナはお人好しだが、決して完全無垢な天使ではない。


己を虐げてきた身内を無条件に受け入れられるほど清らかではない。


もしも、仮に受け入れられるとするなら、彼女を虐げた本人の謝罪は絶対に必要だ。


(それでもやっぱり拒絶するかも、だけどね)


「あ、あたしは……」


ユティアはしばし、悩む。


それから


「……分かった、お姉ちゃんの事、呼んでくれない?」


ユティアはそう、決意を表明した。


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