第5話 ライズという暗殺者の戦い方

ライズは暗殺者だ。


磨いた刃は常に人を殺す為のもの。


20にも満たない年齢でありながらその手腕は洗練されているものの、それはあくまで人を殺す為の力でしかない。


高難易度ダンジョンの魔物を相手に、対人しか知らない暗殺者に為す術はなく……


「はぁ……!」


空中を蹴るように跳び、ライズは蝙蝠型の魔物を斬り裂いた。


「おぉ……またライズちゃんキルー!」


「うむ、見事な手際だな」


「別に、このぐらいならまだ、ね」


……為す術もないどころか、魔物の生息するダンジョンエリアに入った途端、MVPものの活躍だった。


小型のモンスターや空を飛ぶモンスターが現れる度、ライズは風の魔法を身に纏って空間そのものを縦横無尽に駆け回り、ダメージを受けることなく斬り倒していった。


通常の暗殺者と違い、王国暗部の人間は護衛や非公式の取引など、仕事が雑多に渡る。


その中にはダンジョンの魔物の間引きも含まれており、はっきり言えばライズはそこらの冒険者よりもよほどダンジョン慣れしていた。


「いやいや、さっきから魔法撃とうとしてもその前にライズちゃんにぶっ飛ばされるしさぁ、あたしもういらなくね?なんて」


「まぁ、魔導師は基本、外皮の硬い魔物や、集団戦が本領を発揮出来るからな。

拗ねる事もあるまい」


「うん、逆に、大柄で防御力の高い魔物は私、苦手かも。

攻撃力には自信ないから」


あくまで暗殺者の技術は人間を殺す為のものだ。


人を殺すだけなら高い攻撃力など必要ない。


下手に攻撃力を上げるために筋力を付けると、見た目にも表れる為にターゲットから警戒される事もある。


「とはいえ、どうやら1階フロアは小型の魔物や飛行系の魔物が多いようだ。

しばらくはライズの独壇場だろうな」


「そうだ……ねっ!」


通路の曲がり角から急カーブで突進してくる人面顔のコウモリをズバッと斬り裂いた。


緑色の血液がピシャッと飛び散り、ライズの顔に掛かる。


「あ、ライズさん、今消毒しますね」


ティナシアがトテテと近付いてきて、顔を拭いた後に解毒の魔法を掛けてくる。


「わざわざ汚れるたびにこんな事しなくて良いのに。

君は回復役なんだから」


「そ、そうですけど、私が1番の役立たずですし、それに魔力量だけなら自信があるので大丈夫です。

あ、あと、魔物の血液って、毒の可能性もあるし、付着したらその度に取り除くのが安全だって、本にありました」


確かに、ティナシアの言う事は事実だった。


冒険者の中には魔物の毒で肌がただれた者もいるし、遅延性の毒が後々のちのち戦闘に響く事もある。


その為、教本では魔物の体液に触れたらその度に浄化するのが望ましいと書かれていた。


しかし現実にはそんな余裕がない事が多い。


解毒魔法はお世辞にもコスパの良いと言える魔法ではなく、戦闘の度に使っていては一瞬で魔力切れとなってしまうからだ。


ティナシアはパーティ唯一のヒーラーである為、出来れば魔力は節約して欲しい。


「ティナシア、確かに解毒は大切だけど、それ以上に大事なのは回復の方なんだ。

もし、魔物との戦いで瀕死の重症になった時、解毒の使い過ぎで回復出来ないなんてなったら目も当てられない。

解毒による浄化は多くても1フロア進む度に1回程度で良いんだよ」


「っ、あ、す、すみません、私、頭回らなくて……」


「良いよ、分かってくれれば。

君はダンジョン素人だし、知らない事が多くても仕方ない」


「はい……」


ティナシアはしゅん、と落込みながら頷く。


その姿が小動物みたいで、不意に可愛く思えた。


(いやいや、いくら可愛い女の子だからって妹虐めるクズはないだろ)


自分で自分に言い聞かせた。


年頃の男子として、女の子に興味がないなんて言わない。


それでも、目の前の少女……いや、こんな場所に送られるような極悪少女に欲情するほど見境なくはなりたくない。


ライズはそう思った。

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