第7話 休憩室の極悪少女達

休憩室は石造りの薄寒い空間に、簡易照明と簡易調理場がくっついている。


奥の通路には仮眠用の部屋が複数ある為、パーティ毎に部屋分けする事が出来そうだった。


「よし、そんじゃ、飯食おう!」


リースレットが言い放つ。


「え、ご飯ですか?

でも、材料が……」


「材料なんざ簡単に手に入るって、へい!監視役さーん!飯!」


入口の柵から、外へ呼びかける。


するとクリコが顔を出してくる。


「お前、少し馴れ馴れし過ぎないか?

自分の立場分かってるか?」


「わぁってるって、んで、飯ちょーだい!」


クリコは溜息を吐きながら


「ちょうど良かったな、食料補給のキャラバンが来てるから、適当に買い物してろや」


クリコは視界から姿を消す。


しばらくすると、ガラガラと馬車を引いたメガネにマスク、金髪姿の少年が現れた。


荷車は屋台構造となっており、そこに野菜、魚、肉などギュウギュウに詰め込まれている。


「どーもー、キャラバンロイヤルスーパーのレオでーす」


軽い口調、人生を舐めているようなチャラそうな印象、しかしその声を聞いた時、ライズは目を見開いた。


「は……?」


「はぁ、馬鹿だ、馬鹿がおる……」


「うっわ、流石にあたしもちょっと引くかも」


「??み、皆さん、この人がどうしたんですか?」


ティナシアだけ、目の前の男の正体に気付かずオロオロしている。


(って、なんで聖女様の姉なのに知らないんだよ、君も会った事あるよね……!)


「……で?何の真似だ?

レオン王太子よ」


「え?レオン?誰ッスか、それは?

俺はキャラバンの新入り、レオですよ?」


「巫山戯るでないわ、アホな変装までして、自分がどれほどアホな事をやらかしているか自覚はあるのか?」


魔王の娘に正論を言われる国王の息子。


レオもといレオンは「はぁ」と溜息をついてメガネとマスクを外す。


「バレないと思ったんだけどなぁ、この変装、うちの城の使用人にもバレなかったんだよ?」


「それは面識の問題だ、多少親しい者がみれば一目瞭然だぞ?」


アリスティアは呆れ返る。


「それで、何のつもりだ?」


「ん?そりゃあ気になったからね。

一応知り合い達が集められてるわけだし」


魔王の娘として幽閉されていたアリスティア、仮にも公爵令嬢だったリースレット、聖女の姉であるティナシア、王国暗部であるライズ。


確かに、顔触れを見れば全員が王子と知り合いだと言える立場にあった。


「あれこれ根回しして権力使って、自前でキャラバン作ってみた」


「世界でもトップクラスに無駄な権力乱用だな……」


「まぁ、やる事はこうしてダンジョン回って、金やドロップ品を食料と交換するだけだし?

食費も国庫で賄ってるし、俺個人は楽なもんだよ。

それより、何か買ってくだろう?

個人的にはいちごと大根の漬物がオススメだけど?」


「なんだ、その謎すぎるラインナップは」


(私の好物だよ……)


ライズは言葉に出来ない呆れを目線で訴えた。


この王子は何故か、身分も生い立ちもまるで違うはずのライズを可愛がっていた。


それこそ、弟のように。


ライズは目が合った瞬間、バチっとウィンクされた。


(君の為に仕事捨てて来た!)


(さっさと公務に戻ってください!)


心の中だが、目の前のアホ王子の声が聞こえた気がした。


「……とりあえず、適当な物を買わない?いつまでもこんな場所で駄弁るわけにも行かないし」


ライズが呼び掛ける事でようやく本題に入る事となった。


買い物そのものはつつがなく終了。


レオンは名残惜しそうにしながらも去って行った。




その後、食事タイムとなった。


料理当番はライズである。


「うっま!マジウマなんですけど!?」


「うむ、かなりの美味だな」


「はい、お箸が止まりません……!」


「ただの肉じゃがでそこまで言われるとは思わなかったんだけど……」


ライズは照れ、頭を掻く。


貴族にまで褒められるとは思わなかったが、ライズは料理は得意な方だと自負していた。


というのも、自分を育ててくれた養父が家事の壊滅的に出来ない人間だったので、ライズがやるしかなかったのだ。


お陰でレオンには、「いつでも嫁に行けるね。なんなら僕が貰う?」などとからかわれた事もある。


一応言っておくと、王国は同性婚を認めていない。


「ティナシア、あんまり早く食べる身体に悪いよ?」


「へ?あ、すみません……」


ティナシアは頬に肉クズを付けて赤面していた。


「まぁ、育ち盛りだろうし、お腹も減ってたのかもしれないけど」


ライズの情報では、確かティナシアは16歳だ。


それにしては、下手をすれば12歳程度と勘違いしてしまう容姿だが。


(まぁ、成長には個人差があるといえばそれまでだけど……)


「あ、あの……」


「ん?何?」


「おかわりって、ありますか……?」


恥ずかしそうに尋ねてくる彼女は、やはり妹を虐めるような人間には見えないのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る