第28話 聖女様に喧嘩売ろう

王城まで帰還したライズは、己の部屋までティナを連れ帰った。


……別に他意があるわけでなく、神殿に囚えられているはずのティナを他人の目に入れるわけには行かなかったのだ。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「ん?」


「助けてくれたのは嬉しいけど、でも大丈夫なの?

たぶん、神殿の人達、今頃私の事探してると思うし……」


「だろうね」


「だろうねって、そんな……。

もし、お兄ちゃんが神殿に咎められるなんてなったら……」


「確かに、そのリスクもある。

だから、その前にこっちから攻勢に出ないとね」


「え?」 


ライズは耳から、カメラを取り外した。


「幸い、証拠品はあるし」


「もしかして、さっきのやり取り撮ってたの?」


「そうでもなきゃ、あそこで拐うなんて出来なかったよ」


王家という後ろ盾もないライズは、仮に神殿に咎められれば為す術もないのだから。


「これさえあれば、あの偽物の聖女を打ちのめす事も出来るはずだよ」 


「打ちのめす……の?」


ユティアのティナへの仕打ちをじかに見た以上、ライズには遠慮する理由などない。


ライズを押し留めていた、聖女が姉に呪いを掛けるはずがないという思い込みは、ユティアがティナを虐める姿を目撃した時点で崩れたのだ。


「打ちのめすって、どうやって?」


「まぁ、1番単純なのは、このカメラの映像を国中にばら撒く事かな」


その言葉にティナは顔色を変える。


「待って!そんな事したら、ユティアはどうなるの!?」


「それこそ、処刑になるだろうね。

本来の聖女である姉を貶め、さらには聖女を偽った極悪人として」


ライズにとってはそれでも構わなかった。


聖女が偽りのものだと分かった今、ユティアに対する印象は、ティナを貶めたクズ女である。


「そんな……!

それは待って、お兄ちゃん!

せめて、脅すだけにするとかしない?

私を虐めたら映像を流すぞ、みたいに。

そしたらユティアは聖女のままでいられるし、私はユティアに怯えなくて済むし、1番幸せだと思うの!」


「いや、それでも完璧じゃない。

むしろ、君の事をより脅威に感じて、玉砕覚悟で襲って来る可能性もある」


ティナは何も言い返せない。


ユティアならありえる、と考えているのだろう。


「……ユティアは、怖がりなだけなの。

親に捨てられたくない、皆に見放されたくない、死にたくない、それだけなの」


「その為なら、姉を貶めても良いの?

たとえあの女の行動動機が自己防衛だったとしても、許される事じゃないのは分かるよね?」


「……」


ティナは、しばらく黙って俯いた。


その後


「分かった、でも、その前に一度だけユティアを説得させて?

無駄かもしれないし、自己満足かもしれない……。

でも、私はユティアの姉だから。

あの子の事、怖い気持ちもあるし、逃げたい気持ちもあるけど、何の説得もしないままで処罰されるのを見るのは嫌だから」


「ティナ……分かったよ、でも、それでも改心しなかったらもう、容赦しない」


ティナはコクッと頷いた。


「それとね、もしもユティアを罰する事になっても、その罰は私に決めさせて?

わざと軽い罪にして逃がすなんて事はしないから」


「本当に?」


「うん」


「……分かった、じゃあ、その予定で行こう」




その後ユティア断罪に向けて、2人は話し合ったのだった。

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