1章 水の迷宮編

第3話 クリミナルな少女達

罪人の1人として、ライズが担当する事となったダンジョンは水の迷宮とよばれるダンジョンだった。


王国には6つの高難易度ダンジョンがあるが、その1つである。


ダンジョンは高難易度以外にも無数に存在するものの、そちらには窃盗や詐欺など、比較的罪の軽い者達が担当させられている。


この高難易度ダンジョンを担当させられるという事は、その時点で血も涙もない極悪人という事だ。


その水の迷宮の入口内部に、およそ20人程度の女の子が集められている。


見栄えを重視しただけあり、パッと見だけでもなかなか壮観だ。


「え〜、俺は監視役のクリコだ、これからお前らにはこの、水の迷宮を攻略してもらう。

最奥部のボスを倒すまで出られると思うなよ」


少女達の前で、巨大な戦斧を背負った女性が言い放つ。


罪人達には予め、それぞれのダンジョンに監視役が1人はいる、と知らされている。


最も、それは表向き。


実際はライズのような潜伏監視役も少なからずいるだろう。


そして、罪人達に不審な動きを勘付かれないように、潜伏監視役同士は互いの正体を知らない。


「休憩室はここの1階フロアの脇にあるから勝手に使え。

物資はキャラバンの奴らが定期的に来るから、金や素材でも使って適当に交換しろ。

もちろん、強奪なんてした日には腕千切うでちぎって魔物の餌にするからな?

てめぇら罪人なんだから、今現在生かされてるだけでも有り難いと思えよ?」


話は終わり、クリコは迷宮を出る。


すると、柵が降りて外部とダンジョンで完全に隔絶された。


(皆、隨分と大人しいな)


高難易度ダンジョンの攻略をするまでダンジョンを抜ける事も出来ない、なんて本来ならとてつもない無茶振りだ。


暴れたり、クリコに襲いかかる者がいてもおかしくはないのに。



「皆の者!我の話を聞いて欲しい!」



声を上げたのは、金髪赤目の少女だった。


凍てつくような美貌に白い肌、スパンコールドレスのような衣装だが、スカート部分は前側を大胆にカットして生足を出している。


その上から黒のマントを羽織り、雰囲気は美人吸血鬼といったところか。


「我の名はアリスティア・ミスティロード。魔王グローズ・ミスティロードの娘である!」


その名乗りに、ザワザワとどよめきが起こる。


無理もない。


魔王グローズ……それは、ほんの20年前、突如として王国に現れ、魔族と呼ばれる多くの配下を従えて大暴れしてくれた災厄とも呼べる極悪人なのだ。


幸い10年もすれば冒険者や騎士団の手によって討伐されたが、魔族の残党は今でも暗躍を続けている。


アリスティア・ミスティロードはその魔王の娘だ。


大罪人として捕らえられるのは自然な事だろう。


「これから我々はこのダンジョンを攻略する事となる。

しかし、国で危険と指定されたダンジョンの攻略にソロで挑むのは得策ではない、それは分かるだろう?

たが、だからといって我々全員で攻略したいか……それも否であるはずだ」


少女達は顔を見合わせる。


確かに、その通りだと言わんばかりに。


「なぜなら、複数で行動すればするほど裏切りのリスクは高まるからだ。

このダンジョン攻略は、我々の贖罪であると同時に稼ぎのチャンスでもある。

より強いモンスターを倒し、よりレアな財宝を手に入れれば大きな財産となる。

ボスを倒し、外へ出ればダンジョンでの成果はそのまま報酬へと変わるのだ。

それに、国から言い渡された恩赦はダンジョンでの活躍度合いに応じて与えられる。

大人数で行動しては恩赦を得られるほどの貢献度を得られないかもしれないからな」


そこで、とアリスティアは少女達を見渡す。


「我々は4人行動をすべきだと思う。

これは冒険者の中でも推奨される人数だ。

パーティとしての恩恵を得やすく、相互監視により裏切りが生まれにくい」


「でもそれって、パーティ内の仲間意識だけ強くなって、他のパーティを蹴落とそうって輩が増えるんじゃない?」


誰かが声を上げた。


「無論、そのリスクはある。

だが、その上で、だ。

ソロで活動するより、団体行動による裏切りを恐れるより、これが最も安全性の高い策だと思っている。

理想はパーティ同士で助け合える事だが、それが出来る者ばかりでもないだろうしな」


何しろ、赤の他人ですら信用するなんて難しいのだ。


それが罪人となれば尚更である。


「我からは以上だ」


その後、場はざわつき始める。


アリスティアの言うようにパーティを組んでダンジョン奥へ向かう者、単独で向かう者、2人編成で向かう者、やる気なさげに休憩室へ向かう者、様々である。


最終的に、この場には4人の少女(1人違うけど)が残された。


ライズ、アリスティア、そして、白髪の小柄な少女と青髪のスラッとしたスタイルの少女だ。


(この2人って……ティナシア・ヒーリンレイス伯爵令嬢とリースレット・エヴァンエテル公爵令嬢じゃなかったっか?)


小柄な体格に白髪を肩まで伸ばし、サイドをリボンで飾った少女がティナシアである。


黒を基調とした学生服のような出で立ちの上からなぜか薄汚れたケープを身に着けている。


(ティナシア・ヒーリンレイス……聖女である己の妹を虐め、遂には殺人未遂まで図った悪女……か。

とてもそうは見えないけど、人は見た目によらないな)


ライズの視線に気付くと、ティナシアはビクッと肩を震わせて視線を逸らした。


(もう1人はリースレット・エヴァンエテル……公爵令嬢でありながら冒険者として活動していたものの、素行の悪さが問題になっていた。

さらに国宝を盗み出した事で、公爵家から勘当、今や罪人の身……か)


アリスティアほどではないが背中まで伸びる青髪は、艷やかで見事なものだった。


それを1本のポニーテールにして纏めている。


白を基調としたシャツに、風が吹くだけでめくり上がりそうなミニスカート、その上から魔導師が着るローブを羽織っていた。


見た目には知的な美人、という印象だがライズの目線に気付くと


「およ?どした?そんな下卑た男共がブビブビ言いそうな視線向けられてもビタ一文たりとも出さんぜよ?」


(台無しだ……)


「んむ、丁度4人か。

ならば、我々でパーティを組む事に相違はないか?」


ライズとしては問題なかった。


高難易度ダンジョンをソロで挑む程命知らずではない。


ほか2人もソロで手柄を上げてやろうなどという危ない思想はなかったらしく、4人のパーティはあっさりと決まるのだった。

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