第19話 ダンジョン攻略も終盤です
30階層
「うっひゃあ、あたしたちヤバくない?
普通このレベルのダンジョン、たった1ヶ月でここまで潜るとか無理よ無理」
リースレットが興奮の面持ちで言う。
ライズも気持ちは分からなくもない。
本来、高難易度ダンジョンとなればA級と呼ばれるトップクラスの冒険者がパーティを組んで、3ヶ月程度かけてようやく攻略出来るのだ。
それが叶ったのは、アリスティアの騎士団長級の剣の腕前とか、リースレットの高火力魔法を連発出来る魔力、ライズの熟練したアシストもあるだろうが、1番はティナの功績だろう。
そもそも、本来ダンジョンとは魔物や罠など、いつ命を落とすか分からない危険で満ちている。
だからこそ、優秀な冒険者ほど先へ進むのは慎重になるのだ。
しかし、ティナがいれば、即死でもしない限りはアッサリ回復するのだ。
だからこそライズ達も、ガンガン先へ進めた。
途中、何度か瀕死の状態になったものの、その全てをティナは回復させている。
そのティナ本人も、光魔法による攻撃力はえげつなく、パーティ全体の総合力は大幅に上がっている。
「ふむ、中ボスモンスターのドラゴンが20階層に現れたという事は最深部は40階層か……。
まだ、先は長く思えるが」
「流石に、ここまで来るとマッピングして最短距離直進してもかなり時間かかるしね。
そろそろキャンプも考えた方良いかな?」
「?キャンプ……って?お姉ちゃん」
「ダンジョンの中で野宿するんだよ。
ダンジョンってどこもかしこも休憩室なんてないからね?
そういう時は、ダンジョンで野宿するんだよ」
「それ、危なくない?」
「危ないけど、休憩しなきゃそれこそ体力が持たないからね」
「幸い、ここの迷宮は広さも大した事ないし、今のペースのままなら必要ないだろうけどねぇ」
リースレットが言う。
「大した事ないんですか?
私には、ダンジョンって凄く広いんだなぁって思いましたけど……」
「場所によるんだよ。
基本的に、水や土属性のダンジョンはあまり深くもないし階層の広さもない。
風属性のダンジョンは階層は少ないけど、1つのフロアでかなりの広さがあるね。
火のダンジョンは逆に、階層は多いけど階層毎のサイズは小さい。
光と闇属性のダンジョンは、階層も多い上に広さもある。
同じ高難易度でも、光と闇属性のダンジョンはレベルが違うよ」
「ほぇ〜、そうなんだぁ」
ティナが感心していると
「ひぁ〜!止めてぇくだされ〜、そこは、だ、ひゃあっ!」
奥の部屋から悲鳴のような、色っぽい声がした。
「……また、誰かピンチっぽいねぇ」
「んむ、しかしここまで来ると到達出来る者も限られるはずだが……。
よほどの猛者という事か」
「と、とにかく行きましょう!」
「あ、ティナ!ヒーラーが先行しちゃダメだって!」
真っ先に奥へ向かうティナをライズが追い掛ける。
果たして、辿り着いた部屋では、半透明のスライムに身体を蹂躙されている少女がいた。
ライズは思わず目を逸らす。
「や、らめっ、ちょ、変なところを
「……どうやらお邪魔だったみたいだし、退散しよっか」
「私も賛成」
ライズとリースレットは揃って回れ右をし、立ち去ろうとする。
「待て待て待て、あれは完全にピンチな状態だろうが」
アリスティアが2人を引き止める。
「あれはグラトニースライム、物を食べる事に特化したスライムだな。
種類はあるが、水属性のスライムは一般的に生物の皮脂汚れを好む。
つまり、今現在あの者は美味しく頂かれている最中というわけだ」
「れ、冷静に解説する間に助けてくだされ〜!」
「ちなみに身体的害はない。
むしろ、女性用風俗ではグラトニースライムのヌルヌル責めなんてメニューがあるぐらいだし、性欲解消と共に身体も綺麗になるととても好評だ」
ただ……と、アリスティアは一拍置いて
「グラトニースライムの好む皮脂汚れというのは、性器にまで及ぶ為、処女のまま襲われると初めてを奪った相手はスライムです、というオチもありえるな。
うむ、我ならトラウマである」
「そこまで分かっているなら助けてくだされ〜!」
「まぁ、そう慌てるでない、こいつは火魔法で蒸発させるか強い魔法で消し飛ばすしか倒す方法がないのだ。
というわけでリースレット、流してやれ」
「まさかこんな汚い魔物の掃除なんかの為に魔法を使うなんて思いもしなかったよ……はぁ。
クイックウォーター」
やる気なさそうに放たれた魔法は、襲われていた少女の身体にこびり付いていたスライムを剥ぎ取った。
「ほいっと、ファイア」
剥ぎ取られたスライムはアリスティアの魔法でメラメラと燃え、やがて蒸発した。
「うぅ、助けて頂き
拙者は
フラフラと立ち上がった少女は、ティナ程ではないもののかなり小柄だった。
茶髪の髪をポニーテールとし、愛嬌のある幼さの滲み出る顔は、スライムに襲われたばかりだからなのか赤らんでいて、色っぽい。
ライズの記憶では、少女の着ている衣装は着物と呼ばれるもので、日の国イザナギ特有のものだったはずだ。
しかし、その着物も今ははだけ、小柄な容姿に合わない双丘がギリギリまで露出していたり、帯が解けて全裸になりかけていたり、年頃の少年には刺激の強い有様となっていた。
「まだ男を知らぬ内に純血を散らされてはたまらんでござるからな、感謝するでござるよ。
……正直、もっと早く助けて欲しかった気もいたすが」
「まぁ、結果として助かったのだから良いだろう。
ところで、お主1人か?
仲間のパーティはどこにいる?」
「あ、拙者にパーティはおらんでござる。
拙者、ソロで活動している為」
ライズはギョッとした。
普通、高難易度ダンジョンの、しかもこんな深部までソロで進むなんて不可能だ。
「よくもまぁ、そんな無茶が出来たものだな。
よほど腕に自身があるという事か?」
アリスティアが疑問をぶつけると
「たはは、拙者、刀を振るうしか脳がないでござるからなぁ。
チームプレイというのは苦手なんでござるよ。
まさか、あんな魔物までいようとは思わなかったでござる。
以後、気をつけねば」
寿は「では」と言い残し、奥の通路へ去って行った。
「ふぁ〜、なんだか個性的な人ですねぇ」
「まぁ、この国じゃ日の国の人を見る事自体珍しいしね」
(でも……変だな)
ライズは不審に思った。
ティナが常日頃から休憩室で診療所を開いている影響で、大体の犯罪冒険者の顔は見知っている。
しかし、その顔触れの中に寿はいなかった。
ソロで活動するデメリットの1つは野宿が困難な事だ。
周囲を見張る人間がいないので、魔物除けの魔法で守られた休憩室以外では休む事が出来ない。
しかし、休憩室で一度も見た事がないという事は、寿は今まで休憩室を一切使わずにダンジョンを攻略し続けていた事になる。
(そんな馬鹿な……)
そう思いながらも、ライズはしばらく寿の事を忘れられなかった。
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