第52話

「うーん、やっぱりちょっと痛みますわね」

鏡の前でフィオラは左肩をさする。

先日の騒動で、スイリンから受けた一撃により彼女は肩を痛めていた。

(まあこの程度で済んだことを感謝すべきなのでしょうけれど)

「着物は少し緩めましょうか」

フィオラは用意された着物を着て首元の布を揃える。

(これで合っているのかしら……)

だんだんと不安になってくる。本で読んだことはあるが自分で着物を着たことはなかった。

だが、今日の会合もとい宴に参加するために何とかして着こなさなければならなかった。

フィオラが苦戦していると、コンコンと扉が叩かれる。

「はい?」

返事をすると「失礼いたします!」と栗色の毛をした女性が入ってきた。

彼女は簡易的な着物にエプロンのようなものをつけており頭からぴょこんと2本の短い耳が生えている。

「お手伝いをしに参りました……ってもうそこまで着ているんですか!?

早いですね……以前着物を自分で着られたことあるんですか?」

「いえ……今日が初めてですわ」

フィオラがそう答えると彼女は耳をピンと立てて驚いた。

「ハッ!申し遅れました。本日身支度を担当させていただきます、ウーラと申します!よろしくお願いします!」

彼女は元気に挨拶をするとテキパキと動き、あっという間にフィオラは着物を着終わった。

「腰細いですねー。帯がどんどん締められちゃう。いいなー羨ましいっ」

「そ、そんなことありませんわ……ありがとうございます」

そんなに褒められたことのないフィオラは、彼女の言葉に少しドギマギしてしまう。

「次に髪を整えさせていただきますね!」

ウーラはそう言うと、さあさあこちらへと鏡の前までフィオラを案内して行く。

「本日はどのような髪型にいたしましょう?フィオラ様の髪は綺麗ですからね。このまま下ろしていても十分美しいのですがたまにはちょっと違う髪型にもしてみましょうか!綺麗なウェーブだからなぁ……あ、そうだ!」

と言って彼女はフィオラの髪編み始める。

フィオラはもうされるがままに 椅子に座っていた。

「私聞きました。フィオラ様がこの国を助けてくれたって!」

「そんな……大袈裟ですわ」

「いやいや……私のような小動物がモデルとなっている怪物けものは、どうしても力が弱くて、ただ逃げるばかりだったんです。そんな中、あんなにたくさんの騎士たちに向かって颯爽と駆けてゆくフィオラ様はとってもかっこよくて美しかったです~!

あ!そんなこと言っている間にできましたよー!いかがでしょう!」

フィオラの髪は 三つ編みで一つに結われ、肩を経由して胸の方へ流されている。アクセサリーとしていくつかの花があしらわれ、それが可愛らしい印象を与えていた。

「とても気に入りましたわ。ありがとうございます」

フィオラがそう言うと、ウーラはニパーと笑った。

「早くこんな可愛いフィオラ様をレイリオ様に見せたいです!」

ふふっとティアラは笑みを帰す。

現在フィオラとレイリオ用の部屋は分けられていた。元凶であるザリィバは捉えられ、フィオラが彼女の記憶を覗いた結果これ以上の被害は出ないだろうと判断したからだった。

あの後、ハイリンはこの国で何が起きていたのか、隠さずに国民に打ち明けた。

全員が全員 ぐに納得するわけではなかったが、特に暴動が起きることもなく、日常が帰ってきつつあった。

「レイリオさまの着物姿も久しぶりだなぁ。レイリオ様、この国に来てからずっと洋服でしたから」

レイリオはフィオラからもらった服をずっと着ていたいという理由で和装になるのを断っていた。

今回はフィオラがレイディオの和服姿も見ていたいと言ったためレイリオも着替えることになったのだ。

「宴が楽しみです。まあ私は遠目からでしか見ることができないんですけれね」

えへへとウーラは笑う。

「あ!もうこんな時間です!ささ、行きましょ」

長い廊下を歩く。

所々城の柱が壊れたとかで通行止めになっていた。

フィオラが中央広場で戦っている時に、城の中でも何かひと騒動あったらしい。噂によるとレイリオが戦っている姿を見たとか見なかったとか。

まだ彼の口から直接聞けてはいないから何とも言えないが。


そんなことを考えていたら会場にたどり着いていた。テーブルが整然と並べられ、色とりどりの料理がその上に並んでいる。

太鼓や笛の音がゆったりと演奏されて、集まる怪物けもの達はみな楽しそうである。

その会場の中、一つ高い位置に設置された女王用の席には、ハイリンの席だけではなく、他の 四人(スイリン、フーシィ、レイリオ、フィオラ)が座る席も用意されていた。

「さあ今日は無礼講じゃ!皆、大いに楽しんでくれ」

ハイリンがそう言い、乾杯!、とグラスのあたる音が鳴った。

被害を受けた建物の復旧は進み、当初疑心暗鬼だった幹部同士の信頼も戻ってきている。

だが、王族であるフーシィにひどい当たり方をしてしまったこと、助けてくれようとしていた 人たちを殺しかけたこと……。

自責の念で怪物けものたちはどこか暗い顔をしていた。そういった雰囲気を吹き飛ばそうと 企画したのが、今回の宴だというわけだ。

フィオラが到着すると、既に到着していたスイリン達が手を振った。

フーシィに至っては既に酒を何杯か飲んでいるようだった。

「フィオラ!よく来たのぅ」

ハイリンがにこやかに手招きをする。

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