第8話 怪物《けもの》の国へ
レイリオは通りから外れて森の方へと歩く。フィオラはその後をついていった。既に日は落ちきって、少し肌寒い。フィオラはドレス(とはいえ簡易的なものなのでワンピースと言った方が正しい)を来ているが、レイリオは上下白のボロボロのTシャツだ。新しく服を買うと提案したが、
それでも、とフィオラは彼に白のシャツと黒のズボンを渡す。遠慮していたが、服をもらったのが嬉しかったようで、彼は貰った服をギュウウウと抱き締めた。
レイリオは迷いなく進んでいく。辺りはさらに暗くなり、木葉のせいで視界も悪い。一人で歩いていたらお化けにも出くわしそうな雰囲気だ。
不意にレイリオが足を止める。
「着きました!」
フィオラは周りを見回す。今まで歩いてきた景色と変わらず、木々がひしめき合い、うっそうとしている。家らしきものは見つけられなかった。
(もしかして
フィオラがそんなことを考えている間に、レイリオは目の前の空気を押すような動作を見せた。何回も繰り返している姿はまるでパントマイムのようだ。4、5回繰り返した後、レイリオは小さく頷くとなにかを掴んだ。彼に捕まれた空間がグニャリと歪む。見えない布があるかのようにレイリオに捕まれた場所にシワが生まれる。レイリオは両手で掴むとそのままベリッと何かを剥がした。
目の前に細長い四角い空間が出現する。直感的にその空間の中はこの森とは違う場所であると分かる。
「僕の家はこの中です」
レイリオは先に中へと入り、フィオラの方へ手を伸ばす。驚きつつもレイリオの手を取り、中へと入った。後ろでグニュンと音を立てて、入り口が歪み、あの四角の空間は消えた。
「この入り口は
(他の生き物……というのは人間の他に魔族への対策もしている、というわけね……すごいわ。どういう仕組みなのかしら)
この世界には人・
(人間ももう少し見習った方がいいわね。自分達の力を過信して、防衛に費用をあまり割かないのはどうかしておりますわ)
清潔感がある綺麗な町だが、一番目につくのは高くそびえる王宮だ。宮殿と言った方がいいのだろうか。赤で彩られた城は、橙色の灯りによってぼんやりと輝いている。
レイリオと一緒に歩いていると、ヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
「ねえあれ……」
「もしかして………」
住民は二人を指差して話している。
(人間が
話し合っていた住民のうち一人が二人の前へ歩み出た。制服のようなものを着ているから学生なのだろう。おさげが可愛らしい女学生はペタンと膝をおると、震える声で話し出した。
「もしかして、レイリオ様、ですか……」
コクンとレイリオが頷く。瞬間、場は歓声に包まれた。
「レイリオ様だ!!レイリオ様が帰ってきた!」
「ああ……行方不明になられてから10年………もう諦めるしかないと……うぅ……!」
「ずっと、ずっとお待ちしておりました!」
ある者は笑いある者は泣き、レイリオが帰ってきたことを喜んでいる。
「?、?、?」
フィオラが状況を飲み込むより先にあれよあれよと状況が変化していく。
まず馬車が来た。それにレイリオが乗せられた。その後、「この人間は何者だ」という質問にレイリオが「命の恩人」だと答えるとフィオラも馬車に乗せられた。
全速力で馬車は進んでいく。着いたのは、入り口からも見えた赤い宮殿だった。
「さーてレイリオ?説明してもらっても……?」
「なにから話せばいいんでしょう……えーと、まず、この城の主は僕の母です」
一を聞いて十を知るとはこういうことか、とフィオラは思った。
(レイリオはこの国の王子だったのね。何かしらのアクシデントがあって行方不明になり……ここに戻ってきたのは10年ぶりってところかしら)
赤の大きな門が開く。兎の耳を持つ従者につれられ、長い廊下を歩くと、荘厳な扉の前に立たされた。
左右に待機している従者が扉を開く。
大広間が目の前に広がっていた。茶色のフローリングがよく掃除されていて輝くばかりであり、4、5本設置されている太い柱にも錆や傷は見られない。その部屋の奥で巨大な玉座に座っているのは、今までに見たことのない大狐であった。
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