第9話 謁見
「レイリオなのかえ……?」
美しく、荘厳な声が響き渡る。美しい白の毛並みで覆われた体がみるみると人間の者に変わっていく。数秒後、玉座には美しくも妖艶な金の髪の女性が座っていた、肌は透き通るように白く、艶のある髪は腰元まで伸びている。赤い瞳の端には濃い朱色のアイシャドウが塗られ、口紅も同じ色で統一されていた。頭からはレイリオとは対称的な白の耳が生えている。その傍らには槍を持った銀の狼が控えている。顔は狼だが、その立ち姿から女性であることが伺い知れる。
「愛しきやや子……私のことは覚えておるか……?はよ、こちらへ」
狐の女性は手招きをする。少し緊張した面持ちでレイリオは彼女に近づいた。
ふわりと、彼女はレイリオを抱き締めた。
レイリオは目を見開く。
「よくぞ、よくぞ生きて戻ってきてくれた……もう大丈夫じゃからの」
レイリオの髪を優しく撫でつつ、彼女はポツリと呟く。
「リーリィ」
「はっ!」
フィオラの目の前に槍が迫る。
(あら……?)
反射的にフィオラは左に避ける。
槍は髪を貫き、広間に金の髪が舞う。
「母上!?何を……!」
「今母上と……!嬉しいのう。そなたにもう一度母と呼んでもらえる日を毎日夢に見たぞ」
「説明してください!どうしてフィオラ様を!」
必死に訴えるレイリオに、彼女は眉をひそめた。
「フィオラ"様"じゃと?何があったかは分からぬが、王族であるそなたが他人を様付けするなど……!それも、人間を!」
「フィオラ様は僕の命の恩人です。僕に酷いことをした男達を倒して、僕を救ってくれた」
レイリオは静かに訴えた。その瞳孔は開ききっている。
「……カラスから聞いておる。民が騒いでいたとな。信じたい気持ちはやまやまであるが、私の国の子は、親切で他人を信じやすい者が多いからの」
彼女はゆっくりと顔をあげる。フィオラを見据え、口を開いた。
「女よ、証明して見せよ!レイリオの言う通り男共を倒す実力があるのならば、リーリィの槍も捌けるであろうて!」
彼女は椅子に座り直し、見物の構えを取る。駆けつけようとするレイリオにフィオラは目線で大丈夫だと伝える。
フィオラはリーリィと呼ばれた狼に向き直った。
(さーて、どうしましょうね。この部屋に入る時に武器は全て取りあげられている……この部屋の外に出ることは許されないでしょうし、素手で戦うしかありませんわね。友好的に見せるために、なるべく傷つけたくはありませんけれど……そんなことを考えて戦える相手ではなさそうですわ)
リーリィが地を蹴る。
(速い!)
間一髪で避ける。槍は空を切り、がら空きになった
入る─────そう思った瞬間、リーリィの銀の鋭い瞳と目があった。
「へぇ……」
思わずフィオラは声を漏らす。空いている片腕で、リーリィが放った蹴りを受け止める。蹴飛ばされ、壁にぶつかるまで数秒、という時に、フィオラは一度垂直に地を蹴り、宙で一度回って勢いを殺した。そのまま足に力を入れ、ザザザザと音を立てて壁の手前で止まる。寸前まで迫っていたリーリィの追撃を体をひねることで交わし、そのひねった反動を利用してリーリィの腹に蹴りを打ち込む。
「ぐぅ……!」
「あら、これで倒れませんか……今の蹴り、けっこう頑張ったのですけれど」
「私は、ハイリン様直属の、近衛兵だ……人間の蹴りなどにやられるものか!」
リーリィは槍を構え直す。フィオラも息を吐き、構える。
(どうしましょうどうしましょうどうしましょう……。こんな、久しぶりの、"命"を感じる戦闘……)
楽しすぎる。
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