第49話

「お前ぇ………!」

ザリィバはグググと握っていた手に力を込める。長い爪が手のひらに食い込み、血が滲み出した。

「お前!お前なんなの!?」

レイリオのくせに!レイリオのくせに!無力なやつのはずなのに!

ザリィバは衝動のまま、一瞬で顔を蛇の形に変形させるとそのままレイリオに噛み付いた。彼女のスピードは凄まじく、人が瞬きをするよりも早く獲物を捕らえることができる。

つまりレイリオが避けようとしたときには既に、彼の頭を食いちぎっていることが可能性なのだ。

それはレイリオも知っていた。

だから彼は、ザリィバが攻撃すると分かった瞬間に片腕だけを黒豹の大きな腕と変形させた。がら空きになった彼女の胴体を横から殴る。

「あなたの行いは、許容できる範囲をとっくに超えている。手加減は必要ないですよね?」

メキメキとザリィバのあばら骨にヒビがはいる。

ザリィバそのまま、レイリオに噛みかかろうとしていた頭部ごと、横へ飛ばされる。

「…… っ!? 」

ガラガラと音を立てて場内の柱が崩れる。壁や扉を破壊しながら、ザリィバはそのまま広場の方へと飛ばされた。

(なんだ………なぜ空が見える……!?)

何が起こったか分からない、しかし受け身を取らねば地面に叩きつけられて死んでしまうとザリィバは必死に受け身を取った。

だがそれは間に合わず、中途半端な受け身をとって、ザリィバは地面に転がった。

先ほどの打撃と、今の落下の衝撃で、体中が痛みに支配されている。

地面についている両手をザリィバはじっと見つめた。美しかった着物は土で汚れぐしゃぐしゃになり、綺麗な手や足には傷ができている。

もしこの姿のまま町に出れば、みすぼらしい姿だと誰もが嘲笑するだろう。

「あんた、あんた……私にこんなことをしてただじゃおかないから!絶対に許さない!絶対に!!」

ザリィバはまだ城にいるであろうレイリオに吼えた。

彼女は逆上し、体の所々に鱗などの蛇の特徴が現れている。

「いいかい!ちょっと調子に乗っているようだけどお前なんかすぐに殺して、この国はもうすぐ私が支配するんだ!お前の愛しい母親も、フィオラも!皆殺しにして、お前の元に送ってやるよ!」

そこでハタ、とザリィバは自分の声が異様に耳に響くことに気がついた。まるで拡声器を使って話しているような……。

(私、こんなに大声出せたっけ。いや、それよりもここはどこだ?

広場……?広場のどこにいる?)

まさかと思い、恐る恐る振り返る。

そこにはハイリンが立っていた。


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