第48話

しばらくそんなやり取りを続けた後、レイリオは勢いよく地面を蹴って、大きくリーリィと距離をとった。頭の中で情報を咀嚼するようにウンウンと頷く。

「リーリィさんの攻撃の癖はだいたい分かった……なるほど、フィオラ様はこんな感じの攻撃を避けていたんだ。あんなに綺麗に、優雅に……!

ああ、なんて素敵なんだろう!」

彼はそんな一人言を言っている。

隙が生まれた。そう思ったのだろう。

リーリィは素早く槍を持ち直すと、うっとりと天井を見つめるような姿勢をとっているレイリオにそれを突き刺す。

槍の先が当たる刹那、レイリオは瞳だけを動かしてリーリィを見た。


時が、止まったような気がした。


その目には何の感情も宿っておらず、刺すような冷たい視線が、リーリィに突き刺さる。その瞳から、目を離すことができない。

(恐ろしい)

その思考が脳を支配する。

「あー、君はもういいよ」

その声が聞こえるや否や、レイリオの体が変貌する。普段の、腕や足といった一部分の獣化ではない。

この国に来てから初めて見せる、完全なる獣化である。小柄であったはずの彼の体は徐々に大きくなっていく。その毛色吸い込まれそうな黒であり、瞳は宝石のような輝かしい金色であった。

目の前に現れたのは巨大な黒豹だ。少し離れたところで見ているはずのザリィバも、彼の姿に動揺を見せた。フィオラはレイリオの耳を見たとき、猫か何かだと思っていたらしいが、これは、そんな可愛らしいものではない。

リーリィは一瞬たじろいだが、臆せずそのまま彼に突っ込んでいく。獣化をすれば確かにパワーは上昇するが、その分細やかな動きができなくなる。人型を保つ怪物けものには、小回りで遅れをとるのだ。

だから、完成な獣の姿になったレイリオが戦闘態勢に入るよりも前に、その懐の下に入ってしまえばこちらの勝ちだと、リーリィはそう判断した。

「え?」

上から天井が降ってくる。いや、天井ではない。それはレイリオの手だった。

(あ……)

そう思った時にはすでに衝撃が来た後だった。

レイリオが手をどけると、そこには床に倒れ、動かないリーリィがいた。チーン、という効果音が聞こえてくるような、そんな呆気なさだった。

それを見て、控えていた兵が一斉にレイリオへ駆け出す。相手が王族だというので躊躇っていたが、仲間がやられたとあっては放っておくわけにもいかない。

彼らは思い思いの武器でレイリオを殺そうとする。

狼、虎、犬、熊……様々な動物へと姿を変えた騎士達が一斉に飛びかかる。


結論から言おう。


次にザリィバが確認したのは地面に倒れ伏す獣たちと、人型に戻るレイリオの姿だった。

「………!」

信じられないと自分を凝視するザリィバに、レイリオは場に似合わず、照れたように目を下へとそらす。

「僕、本当はさっきの姿になるつもりなかったんですよ。だってあの姿はいささか……暴力的で怖いでしょ?

フィオラ様の前では可愛い僕でいたいんです。

いつでも愛してもらえるような、そんな僕に。

だから、僕があんな姿になれるなんてバレちゃったらまずいんですよ……」

黙ってくれますよね?、とレイリオは人差し指を口に当てた。

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