第47話

ドタドタと廊下を走る音が大きくなる。

いつもならば騒がしいと叱るところであるが、今日ばかりは、その足音に喜びを覚える。

先ほど確認していた、城内に残る兵士が到着したのだ。

「ザリィバ様に、レイリオ様!?この騒ぎは……?何があったのですか!」

駆けつけた面々の一人を確認し、ザリィバはにやりと笑う。ザリィバに事情を尋ねた狼の怪物けものは、ハイリンの護衛の仕事をしていたリーリィであった。

「リーリィ、よく来てくれたね。ちょいとお願いがあるんだ」

ハイリンはこの国の女王であり、その身柄は誰よりも強いものが守らねばならない。

彼女は(スイリンには劣るが)騎士団の中での実力はトップクラスであり、ザリィバも彼女には一目おいていた。

「リーリィ、信じられないことだとは思うんだけど、これは全てレイリオ様がやったんだよ。でもね、レイリオ様はフィオラに操られているだけなんだ。レイリオ様を救うためにも、今ここであの子を止めなければならない。彼の持っているあのスイッチはフィオラから渡された、爆弾を起動させるためのものだよ。あれを奪い取り私のものへ渡しておくれ」

スラスラとザリィバからそんな言葉セリフが吐かれる。

「そんなっ」

リーリィはその話を聞きひどく動揺していた。白の毛を逆立て、青の瞳は右左へおろおろと泳ぐ。が、最後にはザリバの言葉に頷き、戦闘態勢とうつる。彼女は自身の持つ槍を構え、少し躊躇いながらもレイリオに向き直った。

そんな彼女に、レイリオはため息をつく。

「戦いたくないなぁ。仲間を傷つけるのは、好きじゃないんだ」


リーリィは「申し訳ありません」と、小さく呟いた後、鍛え上げた模範的な動きでレイリオへと接近する。レイリオはその小柄な体を生かし、軽々とリーリィの攻撃を避けた。

「へぇ、結構動けるじゃないか。でもそれも時間の問題だね。おされてるし。

今おとなしくそのスイッチを渡せば、命だけは助けてやってもいいよ」

ザリィバの言葉をレイリオは聞いていなかった。

レイリオはどこか楽しそうにリーリィに話しかける

「君は前にフィオラ様を傷つけたよね。でも、恨んじゃいないよ。母の命令で仕方なくやったんだもんね」

レイリオはズイッとリーリィに顔を近づける。予想外の行動に、リーリィはぎょっとして体勢を崩しかける。

「僕、一度あなたとはお話ししてみたいと思ってたんだ!フィオラ様と戦ったことのあるあなたと!

僕は母の膝の上にいたから、遠目からしかその姿を見ることができなくて……。特にあの時の僕は頭に血が上っていて冷静じゃなかったからちゃんとフィオラ様の戦っている姿を目に焼き付けることができなかったんです……」

ペショリとレイリオはその黒い耳を悲しげに倒す。

「だから、詳しい様子を教えてくれませんか!?フィオラ様はどんな風に蹴りを出していましたか?その蹴りはどれほどの威力があったんでしょう!攻撃をヒラリと躱したときの表情は??彼女のスピードはどれくらいでした!?」

ヒョイヒョイと槍を避けながらレイリオはリーリィの答えを引き出そうと話題をふる。

しかしリーリィは槍を振るうのでやっとで、彼の質問に返す余裕はない。

ここまで自分の攻撃が当たらないことがあっただろうかとリーリィは精神的動揺を見せた。

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