第46話

スイッチが押され、カチリと音が鳴る。しかし どこからも爆発音ら聞こえない。

ザリィバは急いで廊下へ出る。

中央広場に耳をすませてみれば先ほどと同じように兵士たちが戦っている音だけが聞こえる。

そして何より、目の前のレイリオがいまだにピンピンとして立っている。

なせだ。おかしい。このスイッチを押せば爆発するはずなのに。

カチカチと何度もスイッチを押しなおすザリィバは見て、レイリオはポケットからザリィバが持っているものと同じスイッチを取り出す。

「あーもしかして、これのことを言っているの?みんながこれを大事そうに守っているから なんだろうと思って取り出しておいたんだー。代わりに似たようなやつをショーケースに入れてね」

ザリバは最初何を言われたか理解できなかった。他でもないレイリオに計画が邪魔されるとは露ほども考えていなかったのだ。じわじわと怒りがこみ上げてくる。

激しい怒りの中で、ザリィバの頭のなかに、レイリオの一挙一動が写し出される。

(待てよ……まさかこいつ)

「お前、いつから私の計画気づいた?このスイッチにそっくりなものなんて、あらかじめ用意しておかないとあるわけないし」

「えー?なにが?」

きょとんとレイリオはザリィバを見る。

「計画とか策略とか、どうでもいいんだ」

レイリオは手の中にあるスイッチを転がして遊ぶ。

「母上……いや、この呼び方めんどくさいや。この国って"殿"って言ったり"様"って言ったり、"兵"って言ったり"騎士"って言ったり、色んな文化混ざってて分かりにくいよねぇ。

……ってなんの話だっけ」

「お前………」

「ああそうそう。最初にお母さんに会ったとき、護衛が少なくなってるなーって思ったんだ。昔はもっと色んな人傍につかせてたし、もっと表情豊かだったし。それでなんか起きてるんだなって」

レイリオは全く興味のなさそうな声色で続ける。

「それでこっそり調べたら、僕の兄弟の死に方不自然だし、お金の流れがちょっとおかしいし、それが問題になってないし、挙げ句僕のところに刺客が来るし」

カラカラとレイリオは笑った。

「そんなの気づくに決まってんじゃん」

「そうして気づいていて、どうして大人しくしていた?」

「だって、おじさんがなんか色々考えてるみたいだったから。

僕が変に動いて混乱させても、って思ってさ」

でも、と彼は声を低くした。

「フィオラ様を巻き込むなら別だよ。フィオラ様にたくさん酷いことをしたよね?そういうやつらは殺されても仕方ないよね??」

狂気的に彼は笑う。その瞳孔は開かれて、そこにいるのはもう無知な子供ではなく、今にも暴走せんとする獣だった。

「フィオラ様はすごいんだ。優しいし、美しいし、頭もいいし、魔法使えるし、体術もできるし……良いところを挙げたらキリがない、とっても素敵な人なんだ」

「君が手を出していい人じゃないんだよ」

「………っ!」

イカれている。

異常なまでのフィオラへの執着に、本能的にザリィバはそう思った。

だがここで彼のペースに呑まれてはいけない。

(とにかく、こいつからスイッチを取り戻さなくては)

そうすれば全てが丸く収まる。

彼が何に怒っていようと、関係ない。

(そうだ、こいつの精神に干渉して、自然に渡すように仕向ければ……)

魔族が一度、レイリオに精神操作の魔法をかけているはずだ。

一度精神系の魔法をかけた相手には、誰かがそれを解かない限り、他人が精神的干渉をすることが容易だ。

ザリィバは呪文を唱える。

この呪文を使うと、相手の今考えていることが空中に文字として現れる。

それを編集して、完了の呪文を唱えれば、相手は自分の思うままに動く。

ザリィバはレイリオの思考が現れるのを待った。

「?」

一向に現れる気配がない。

ザリィバは再び呪文を唱える。二回もやれば、仮に一度も魔法にかかっていなかったとしても反応はあるはずだ。

「な、なぜ効かない……?」

「頭の中が気持ち悪いなぁ。その変な言葉のせい?」

「おかしい、こんなはず」

「前に知らないおにーさんが僕にやったのに似てるなあ。あれも気持ち悪かった。だからやめてもらったんだ」

「やめて……?だがあいつは確かに私に成功したと………!」

「うん、そうお願いしたからね」

(お願い……?そうか、こいつも魔法が使えたのか。フィオラの近くにいたんだから、使えても不思議ではない)

「殺されたくないでしょ?って言ったらすぐに伝えに言ってくれたよ。まさかその相手がザリィバさんとは思わなかったけどね」

(単純な暴力おどしか!!)

ギリギリとザリィバは歯軋りをした。

ここで時間を食っている場合ではないのだ。しかし、命令も魔法も効かない以上、どう対処すればいいのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る