第45話
場に似つかわしくない、カラリとした声が凛と廊下に響いた。
「ザリィバさんお久しぶりです」
そう言ってニコリと笑ったのはレイリオだった。ザリィバ声も出せず、彼を見つめている。レイリオがそこにいることに驚いているのではない。彼の手が、ザリィバの部下の首を絞め ていることが信じられなかった。
部下の足は地面から浮き、ぶらりぶらりと揺れている。
「お、お前何してるんだい……」
絞り出した声でそう尋ねると、レイリアは世間話をするかのような声色で答える。
「何……って、この人達が襲ってきたので、仕方なく反撃しただけですよ」
レイリオは手をパッと開く。持ち上げられていた部下は力なく地面に崩れた。
「大丈夫です。僕は怪我していませんし、何も問題ありません!」
安心させるように、レイリオは元気よく言った。
「問題がない、だって?
問題あるに決まっているだろう?それは私の大事な部下だ。こんなにして……どう責任を取ってくれるんだい?」
ザリィバは極めて穏やかな口調で言う。その体は怒りで細かく震えていたが。
レイリオは数秒何かを思考する。
「ふーむ、なるほど、そうだったんですね。
この
じゃあ、この
ザリィバは言われた意味が分からず、ポカンとする。レイリオは何を言っているのだろうか。
「は? 私がどうして……なんの責任をとらなきゃいけないんだい?」
クスクスとザリィバは笑う。
レイリオは笑われたことに対して特に反応せず、言葉を続ける。
「僕はこの国の正当な次期王位継承者です。そんな僕を殺そうとしたこの男は、死罪となってもおかしくありません。
でも、王族であるザリィバさんが、代わりに責任をとってくれるなら、もう少し軽い刑で済ませることができると思うんです」
笑みを張りつけたまま淡々とレイリオは告げる。ザリィバは笑うことをやめた。
何かがおかしい。
ザリィバの本能がそう警鐘を鳴らしている。
目の前にいるのは紛れもなくレイリオだ。ザリィバの優れた感覚器官がそう告げている。
あの弱々しく、情けないレイリオだと示している。
しかし彼の雰囲気はどこか大人びていて、フィオラの隣にいる時のような子供っぽさは微塵もない。なぜ彼はこんなに落ち着き払っているのだろう。いや、きっと子供だからだ。
彼はまだ今がどんな状況か、把握できていないのだろう。そうに違いない。
(それよりも…… )
今はレイリオにかまっている暇はない。
ザリィバは急いで、レイディオのいるその先、自身の部屋へと急ぐ。その道中、床に倒れ、気を失っている自慢の部下の姿を見る。
(………!?)
中には無残に首を噛みちぎられ、死亡している者もいた。それを見ない振りをして、ザリィバは部屋の扉を開ける。
「ハァ!?」
そこでもまた、部下が何人も倒れ伏している。そいつらを避け、ザリィバは部屋の奥にあるショーケースへと急いだ。そこにあるスイッチさえ無事ならば、計画は遂行できるのだ。レイリオが何の目的があって、こんなことをしたのかは分からないが、このスイッチが何なのかは知らないだろう。
端からみれば、ただのおもちゃのようにも見える。だから大丈夫だ、とザリィバはショーケースへ急いだ。
その中にはザリィバが部屋を出た時と同じように爆弾のスイッチがしっかりと保存されていた。
「ふ、ふふふ……」
ザリィバはホッとしてショーケースを開け、スイッチを手に取る。部屋の外の廊下からドタドタと何人もの足音が聞こえてきた。その音からして屈強な男の兵士が、ここでの騒ぎを聞きつけて駆けつけていることが分かる。
そういえば予備として、城のなかにも数人騎士を待機しておかせたんだった、とザリィバは胸をなでおろした。
いくつか誤算はあったが、これでやっとこの国は私のものだ。
バイバイ、ハイリン・スイリンそして……レイリオ。
彼女は勝ち誇り、スイッチを力強く押した。
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