第44話
「くそ!くそ!くそ!」
カツカツと足早にザリィバは廊下を歩く。
どうして私が追われている?
どうして私が逃げている?
おかしい。おかしいだろう。
ハーハーと呼吸を速くして、ザリィバは広場を抜けて城へと向かう。背後では武器と武器がぶつかる音や、兵士たちの怒号・焦る声が聞こえている。
どうしてうまくいかないんだ。
どうして……。
いつもだ。いつも私は肝心なところで邪魔をされる。姉が王位についた時もそうだった。それまでは順調だったのに肝心なところで父からの邪魔が入った。
だが私はあの時とは違う。あの時よりも力をつけた。そして賢い私は、保険に魔族に協力を要請しているのだ。
魔族の目的などわかっている。私に協力をするフリをして、この国の征服を目論んでいるのだ。だから彼らにはそんな甘い夢を見させておいてやればいい。私が王の地位につけば、すぐさまやつらへの軍を派遣して、この国に逆らうものを一人たりとも逃しはしない。
我らこそが、優れているのだ。
更に私は、
(やはり私は
ザリィバは城の裏手へと向かう。そこは雑木林になっていて、ちょうど小隊一つを隠せるスペースがあった。木々の重なりで、一目見ただけではただ雑木林の一部にしか見えない。その位置を正確に把握していないと隠れている刺客を見つけ出すのは難しいだろう。
援軍を頼んでいる魔族を隠すのに最も適した場所だった。
「おい、出番だ」
ザリィバは雑木林をかき分け、例の場所へと向かう。だがその場所から返事はない。
(場所を間違えたか……?いや、確かにここに魔族をよんだはずだが……)
「魔族、今すぐ返事をしろ。
話しかけられているのが聞こえないのかい!」
葉をかき分け、やっとその場所についたザリィバはハッと息を飲んだ。約束の場所にいたのは、高く積み上げられた 魔族の死体だった。いや、中には生きているやつもいる。しかし、そいつらも身体をピクピクと僅かに動かすばかりで、誰ももう戦える状態ではなかった。
ふと、ある景色が思い出される。地下牢にて、フィオラによって無造作に積み上げられた、男達……。あの屈辱を、もう一度味わわなければならないのか。
「ふざ、けるなよ」
声を震わせ、ザリィバは一番手頃にいた魔族を叩く。
「おい、何があったんだい!なんだこの体たらくは!何か問題が発生したらお前らが真っ先に駆けつけて、鎮圧する。そういう約束だっただろう?契約を果たせバカども!」
多少なりともまだ意識を保っている魔族が、反論するように口を開いた。
「うるさいうるさい!あんな化け物がいるとは聞いていないぞ!俺たちは、事前に聞いていた
あの人間の女は何だ!?あんな奴がいるなら事前に知らせて手をうっておくべきだろ!」
人間の女……。ザリィバは額にシワを寄せる。
嫌な予感がした。いや、それは確信だった。
フィオラ。彼女が先回りをして 全ての魔族を 無力化させたのだろう。
(可能なのか……?人間に……いや、一つの個体にそんなことが……)
つまりフィオラは、スイリンの軍隊から逃げ延びた後、想定よりも早く開かれたこの処刑に合わせ、まず先回りをして魔族を見つけ出し、全員を戦えない状態にさせた上で広場に現れ、フーシィを助け出し、この騒ぎを起こしたというのだろうか。
(なんてやつだ……!)
その事実に思わず手で口を抑える。
ザリィバは今まで、そのような人間に、生物に会ったことがなかった。
「この国にきた時に、もっと早く殺しておかなきゃならないやつだったね……」
ザリィバはボソリと呟く。
「何ぼそぼそしゃべってんだ。これはお前の連絡不足のせいで起こっているんだ!このことはヴァルモン様に報告するからな!もたもたしていないで、早く俺をここから、助け出せ!」
積み上げられた山のなか、自身の仲間におしつぶされている男が苛立たしそうにザリィバへ叫んだ。
ザリィバは無言で頭を蛇の形へと変貌させる。
「?」
バクリ。
男の頭部があっという間に噛みちぎられる。ザリィバ はそれをまずそうに飲み込むと、苛立たしげに唇を舐めた。
「不味いね。食えたもんじゃない。使えもしない。味もまずい。あんたたちなんのために生きてるんだい」
ザリィバはそう言い捨てると、城の方へ戻って行く。積み上げた計画が、ガラガラと崩壊していく音が聞こえた。
認められるかそんなもの。
ザリィバは城の奥、自分の部屋のショーケースへと小走りをする。そこにはハイリン・スイリン・レイリオの首についている、爆弾の起爆スイッチがあった。本当は懐に入れて持ち歩きたいところだったが、処刑場へ入るには王族で さえもボディチェックを受けねばならず、検査員と揉めないために自身の部屋へと置いておいたのだった。
こうなれば仕方がない。あいつらのチョーカーを爆発させて、フィオラたちのせいに見せかける。そうして混乱しているところに、私が指示を出し、やや無理やりではあるがこの国の王となってやる。
計画はまだ続いている。
起爆スイッチのある部屋は、広場に向かわせた騎士よりも何倍も強い精鋭達に守らせている。
先ほど、フィオラがスイリンと戦っているのは確認済みだ。フーシィもあの位置からではここに駆けつけることは難しいだろう。そもそも彼らは、起爆スイッチの場所すら把握できてはいないのだ。仮にフーシィの兵が数人で探しにきたとしても、部屋を守るザリィバの兵にすぐさま殺されるだろう。
ザリィバは自分の部屋へ続く最後の曲がり角を曲がった。部屋はもう目前である。
「これで、終わりだ!」
「何が終わりなの?」
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