第26話
フーシィがいなくなってから、なにが起こっているのか尋ねた。
なんでも地下で捕らえていたアルマがフーシィに指示をされたと吐いたらしい。
「フーシィ様が逃げたところを見ると、まさか本当に………なんて恐れ多いことを……!
探せ!まだ遠くへ逃げていないはずだ!」
廊下が足音で埋め尽くされる。窓から外を見ると、多数の騎士がフーシィを追って、城外へ出ていくところだった。
「フーシィおじさんが……?」
レイリオは信じられないようだった。
(無理もありませんわね。おじが自分を殺そうとしていたなんて……)
「そうだ、アルマに会わせてくれませんか?」
フィオラがそう言うと、狼の騎士はふるふると首を横に振った。
「フーシィ様の名前を聞き出したのはいいものの、アルマはその際の……尋問のせいで衰弱してしまい……」
彼は言葉を濁したが、アルマは死んでしまったのだろう。
フィオラは「そう」とだけ言い、レイリオを連れ、部屋を出た。
フィオラはハイリンに会いに行くつもりだった。しかし、道中で華やかな赤い着物を身に纏った、ザリィバに会った。
「おや?フィオラじゃないか。久しぶりだねぇ」
返事をしようと口を開いた瞬間、フィオラはある変化を感じ取った。ザリィバのフィオラへの視線がいつになく冷たい。反射的にフィオラが怪訝そうな顔をするとパッとザリィバは笑顔を作った。
(気のせい……?いえ、確かに
なにか気に触ることをしただろうかとフィオラは思考を巡らせる。
しかし、そもそもザリィバと会ったのは前回の宴で最後だ。彼女に無礼を働いた記憶もなく、彼女の人間嫌いの性格ゆえの反応だと思うことにした。
「お久しぶりです!」
「お久しぶりですわ、ザリィバ様」
レイリオとフィオラが挨拶をすると、ザリィバは満足そうに頷いた。
「フーシィのことは聞いたかい?あの男、ボーッとしているようで腹にとんでもない野望を抱えていたんだね。でももう大丈夫さ。いずれ捕まる。良かったね、レイリオ」
「…………」
ザリィバの言葉にレイリオは浮かない顔をしている。
それを気に止める様子もなく、ザリィバは話し続ける。
「フィオラもご苦労だったねぇ。ずっとレイリオの側にいるのも大変だったでしょうに。でもこれからは大丈夫だからね」
「大丈夫……?それは……どういう意味でしょうか?」
「ん?だって、主犯のフーシィが屋敷から逃げていったのだぞ?いずれ捕らえられ、処刑される。もうレイリオの命を狙う輩はいないだろう?フィオラがずっと護衛をする必要もないじゃないか!ね?」
とザリィバは手を合わせ首をかしげる。
(この方は……フーシィと違ったやりにくさを感じますわね……)
フーシィはいつも飄々として、真意が読めないやりにくさがあったが、ザリィバはそれとは違う……自分の思いどおりになると信じて疑わない所に強さがある。
自分の望む結果が出ると、周りもそうしてくれると、本気で思っているのだ。
「ハイリン様に指示を仰いでみますわ」
にっこりと告げ、フィオラはその場を立ち去る。
(今レイリオの側を離れるのは危険ですわ……ハイリン様も理解してくださるはず………)
すれ違う刹那、「小娘が………」というザリィバの声が、聞こえたような気がした。
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