第25話

「まさか君に呼ばれるとは思わなかったよ」

ペラペラと喋りながらフーシィはソファに座る。

カチとライターの火をつけ、煙草を吸う。

煙草の独特な匂いが部屋に広がる。

「あの……煙草、控えていただくことは………?」

「んん?」

「煙が……」

絶対に嫌というわけではないが、煙の匂いはあまり好きではない。さらに、レイリオの体を思うと煙を吸わせたくなかった。

「煙……?あー」

フーシィは深く煙草を吸い、煙は吐く。瞬間勢いよく息を吸い込んだ。空気中に吐き出された煙がフーシィの中へと戻っていく。

これでどうだと言わんばかりにフーシィはドヤァと顔を綻ばせる。

「………」

「………」

フィオラとレイリオは目をパチパチと瞬きさせ、次に言う言葉を考えなければならなかった。

「ははっ、じょーだんだよ、じょーだん!お前らの空気が重たいから和ませようと思ったのにさー」

煙草の火を消し、フーシィは口を尖らせた。

そんな様子にフッと笑みが漏れる。確かに緊張して過ぎていたのかもしれない。

適度にリラックスした方が、話を聞き出しやすい。フィオラはお茶を飲んで一息ついた。

「んで?俺になんの用よ?」

「単刀直入にお聞きします。あの日……私とレイリオ様が魔族から逃れてきた時、なぜちょうどよくフーシィ様はあそこにいたのでしょう」

下手に回りくどくいくよりも、フィオラは直球勝負をしかけた。

「それは何回も聞かれたなー。スイリンとかに。答えは誰にでも同じだ。………偶然だよ。釣りをしようって思って出かけただけ。あの道を少し進むと池があるから……そこで鯛でも釣って、酒の肴にしようと思ったの!」

非常時に悪かったよ!と、フーシィは投げやりに言った。

「では……なぜザリィバ様の護衛が森で倒れていたのでしょう」

ぎょっとレイリオはフィオラを見た。レイリオはあの時、フィオラよりも前にいたから見えなかったのだろう。

ピタリ、とフーシィの動きが止まった。

「ザリィバの護衛ぃ……?あんな場所に?見間違えじゃねぇの?」

首をかしげ、フーシィは笑う。しかしその目は笑っておらず、フィオラの表情をじっと見ている。

「そうでしょうか……?」

フィオラも口角をあげ、フーシィの言葉を受け止めるように微笑んだ。

部屋には沈黙が流れた。ピリピリと空気が肌を刺す。

レイリオがおろおろと両者を見ている。

フーシィは煙草を懐から取り出し、火をつける。

フーーッと息を吐き出し、乾いた笑いを漏らした。

「お嬢さん、俺はもうちょっと君が……利口な人かと思っていたよ」

刺すような眼光をフィオラへと向ける。

(なんて……プレッシャー……!)

だがここで気圧されてはいけない。フィオラは口元に力を入れ、笑顔を保つ。

「だが、愚か者でもねぇようだな」

ニカッとフーシィは笑う。場を支配していた圧が緩まる。

「信じるかどうかは君の勝手だが、俺は王の座なんて興味ないね」

ジュ、と煙草を消し、フーシィは髪をかきあげた。

「にしても、君、思ってたより良い女だなぁ。どう?今夜……」

フィオラに伸ばされる手が止まる。

「どういたしました?」

フィオラは特になにもしていない。

「はーぁ!ジョークだよ!……ったく」

フーシィは降参だというように両手をあげた。

何かいるのかとフーシィの視線の先を見るが、そこにはレイリオしかおらず、フィオラと目が合うとレイリオは天使のようににっこりと笑った。


激しく、扉が叩かれた。

ドンドンドン!と、扉が壊れるのではないかというほどノックをされた後、「失礼いたします!」と衛兵が入ってくる。

フィオラとレイリオが口を開く前に、狼の怪物けものが槍をフーシィへと向けた。

「フーシィ様!いや、フーシィ!あなたを反逆罪で逮捕します!両手をあげ、頭の後ろへ!」

フィオラとレイリオはバッとフーシィの方を見る。当の彼は慌てた様子はなく、めんどくさそうにため息をついて髪を掻いた。

「やっぱりこうなるよねー……俺は、あいつを守れればそれでいいのに」

ポソリと呟いた言葉がフィオラの耳に届くか届かないかといううちに、フーシィは後ろへ大きく飛び、「じゃあね」と窓を破って下へと落ちていく。

「っ!」

衛兵は急いで窓から下を覗くが、そこにはもうフーシィの姿はなかった。




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