第39話

スイリンは目を閉じると人型へと戻った。しかしその羽はしまわれず、肩甲骨辺りから茶色の大きな羽が二つ生えている。

「そんな警戒しないでよ。私たちの仲じゃん」

スイリンは口角をあげて笑顔を作る。しかし目は依然として笑っていない。


「そーだな。俺達の仲だ。見逃してくんねぇか?」

フーシィが駄目元で提案する。スイリンは首をゆっくり横に振り、拒絶した。

「無理だよ。そもそも君たちがハイリン様を裏切ったのが悪いんだ。特にフィオラなんて、レイリオを助けたふりして私達に近づくなんてね。

ハイリン様の親切心を利用して……許せないよ」

スイリンは腰元の刀に手を置く。彼女の服装は他の兵の鎧とは違い、和装である。衣服は限りなく軽量化されているようで、裾は短くスカート状になっている。

これが彼女の正式な戦闘服なのだろう。

刀を構えた彼女は見事なまでに、様になっていた。

「参る」

彼女がそう言った瞬間、目の前から姿を消した。

「………っ!」

フィオラは反射的にフーシィの背中を蹴り、上へ飛ぶ。フーシィもまた体を素早く伏せた。

二人の真ん中を斬撃が通過する。そこに攻撃が来たことが分かったのは、フーシィの背中の毛が数本宙を舞ったのと、彼の右足が切り傷がついていたからだ。下から斜め上に切り上げたのだろう。

フィオラもあと数センチ下にいたら足が切れていただろう。

フィオラは地面へと着地する。

(目で追えない……!)


「速いね」

スイリンは刀を払い、二人へ向き直る。

フーシィは獣の姿を消し、人型へと戻った。彼の頭にはハイエナの耳が生えており、手足には鋭い爪がついている。彼もまた、半獣人の姿をとり、スイリンと対峙する。


「はぁ~憂鬱だなあ。俺はか弱いんだ」

ペロリと右手についた血を舐め、フーシィは呟いた。

「フィオラ、先にいけ。俺はここで一秒でも長くスイリンを止めといてやるから」

「そんな………!」

「いーからいーから。俺がカッコ悪く負けるとこ、可愛いおじょーさんに見られたくないのよ」

ね?とフーシィはウィンクをした。

「……分かり、ましたわ……」

死なないでくださいね!と言い、フィオラは逃げるための筋肉に力を入れる。


フィオラが地を蹴る。

「おっと、逃がさないよ!」

スイリンもまた追いかける。その中間にフーシィが割って入った。

「っ邪魔!」

「そう言うなよ。ちょっとだけ俺と遊ぼうぜ?昔みたいに、さ!」

フーシィが蹴りを繰り出す。スイリンは腕をあげてそれを防いだが、勢いは殺せず数本の木を薙ぎ倒して停止する。

パラパラの木屑が彼女の頭に振る。

「はは……そういえば昔じゃれて遊んだりしたっけ……でもいつも決着はつかなかったよね」

スイリンはゆっくりと立ち上がる。

「まじか……俺けっこう真面目に蹴ったんだけど」

「とても良い蹴りだったよ。いつもダラダラしてるフーシィとは思えないほどのね」

始めようか、とスイリンは刀を抜く。

フーシィは「あーもう!」とワシャワシャと髪をかき、拳を構えた。



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