第38話

「………って感じで」

「それだとわたくしの負担が大変なことになるのですが!?」

火を消し、寝る姿勢でフーシィは自身の作戦を語った。それは確かにザリィバに一泡ふかせられるだろうが、不確定要素が多いうえに肝心なところはフィオラ任せであった。

わたくしが城の中の兵を倒し、全員の洗脳を解くって、どれほど大変か分かりまして!?それに想定よりも敵が多かった場合………『なんとかする』ってふわふわにもほどがありますわ!」

「おいおい。あんまおーきい声出すなよ。見つかっちまうだろ」

むっ……としてフィオラは黙る。彼女は計画をたてるとき、あらゆる可能性を考慮し、完璧に立案をする。それなのにこの男と来たら……とフィオラは頭を抱えた。

冷たい風が森を吹き抜け、フィオラの頬を掠める。少し冷静になれた頭でフーシィが言った計画をもう一度頭でまとめ直す。

今思えば、魔族の襲撃から帰ってきた時にフーシィと会ったのは、彼がザリィバからの刺客を排除してくれていたからだ。

ザリィバが黒幕だと分かった今、森の奥に見えたザリィバの兵は、万一魔族の元からレイリオが戻ってきた時に殺すよう命じられていたと予想がつく。そういった脅威を彼は陰ながら取り除いてくれていたのだろう。

(そう考えれば……フーシィは先を見据えた行動をする人なのでしょうけど……)

いやそれでもこの作戦はおかしいでしょう、とフィオラは再び頭を悩ませる。


「いたぞ!あそこだ!」

怒号が聞こえ、ガチャガチャと鎧の擦れる音が耳に届く。

慌てて体を起こしてみれば、何十人もの兵がフィオラたちの方へ馬で駆けてくるところだった。

先頭にいる男の怪物けものが指を指す。彼の身につけているスカーフは赤。ザリィバの兵だ。

「フーシィ及びフィオラの姿を確認!これより拘束を開始する!」

先頭の兵が叫び、おおおおおと雄叫びが鳴り響く。空気が震え、フィオラは耳を抑えた。

ヨッとフーシィが体を起こす。

「全員アホ面並べやがって……やってみろよ……なぁ?」

挑戦的にフーシィは笑う。それに触発されるように一斉に兵はスピードを上げた。

「えっと……挑発したのは良いのですけれどここから何か考えておりますか?」

「おいおい、俺がいつもノープランだと思うなよ?」

フーシィは「見てろって」と突進してくる兵を指差した。

「いいか?逃げられないように回り込んで……ってうわああああああ!?」

先頭を走っていた兵が消えた。下に落ちたのだ。後ろを走る兵はぎょっとしたが、加速している馬が止まれるはずもなく………続々と下へ落ち、つまづき、転んだ。

「あっはははは!見たぁ?あの真ん丸な目!!結構こういう単純なのの方がひっかかるんだよなあ!」

「落とし穴を掘っていたんですか……ナイス、なのですが……もしかしてわたくしも歩く場所間違えたら落ちていました?」

「いやぁ?そうならないように危なかったら止めるし」

「それ、そばにフーシィ様さんいなかったらわたくし気がつけないのでは?」

「…………」

フーシィはそっぽを向き、口笛を吹く。

「そ、そんなことより早いとこずらかりましょ!落とし穴っつってもずっと足止めしてらんないからな」

それにはフィオラも同意だった。二人は体勢を立て直そうとやっきになっている兵たちに背を向け、逆の方向へと走る。

数メートルほど走ったところでフーシィの姿が消えた。

「え?」

(まさか敵の罠に……?)

「フーシィさ……」

「こっちだこっち」

声がした方を振り向くと、そこにはフィオラの背を超えるサイズのハイエナがいた。

「乗んな」

「……失礼します」

ひょいっとフィオラはフーシィに飛び乗った。

「よし、飛ばすから振り落とされないようにな」

その言葉通り、フーシィのスピードは凄まじかった。フィオラは鍛えているから良かったものの、並みの女子ならば一瞬で振り落とされるだろう。

(うーん………)

今は緊急事態だ。文句は言えない。だが先ほどからバサバサと暴れているフィオラの髪の毛が、現状を改善しろと訴えていた。

その時キキーッとフーシィが急停止した。フィオラはその勢いで彼の背を転げ落ちそうになる。

それに文句を言う間もなく、フーシィが止まらなければ走っていたであろう場所に何かが墜落した。そのスピードから、墜落、というワードを使ったが、ソレは紛れもなく、フーシィを狙ってそこへ落下したのだ。

土煙がはれ、現れたのは巨大な鷹である。その大きさから怪物けものであることは明らかだ。

「おいおい」

「あら……」

フーシィが苦笑いをする。フィオラも気を引き締め、さながら狩人ような顔つきへと変わる。


目の前にはスイリンが立っている。彼女の顔には、かつてのような友好的な笑みはもうなくなっていた。






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