第40話

三日後、フーシィの処刑が国中に知らされた。号外だとニュース記事が町中にばらまかれ、驚く者、ショックを受ける者、面白がる者、どうでもいい者……と反応は様々だった。

「号外だよーー!号外!お!お嬢ちゃんも読むかい?」

「ええ、ありがとうございます」

灰色のローブを被った女性に、チラシ売りの男は記事を差し出した。彼女はそれを受け取ると裏路地へ入り、辺りを見回してローブを外す。

「やっぱりこうなるのね……」

フィオラは懐からパンを取り出し、一口かじる。それは固く、水分が抜けていて、今まで食べた中で一番食べづらかった。

「今は贅沢を言ってられませんわね……。わたくしも色々とやることがありますから……」

パンを飲み込み、フィオラは森へと駆けてゆく。


牢屋の中で一人、フーシィはあくびをしていた。彼の手足には拘束具がつけられており、常に三人の兵が彼の動きを監視している。

「あんたらも暇だねー。俺なんもしないよ?」

ほら、こんなに動き制限されてるし!とフーシィて手枷を動かしてみる。ジャラジャラと鎖の音が牢に反響する。

「ザリィバのやつもさ、警戒しすぎだよなー。ほら、この手枷、手首の大きさぴったりなもんだから、うっかり獣化した時にゃ手首がお陀仏だ。こわいこわい」

兵は彼の言葉に沈黙で答えた。

「へーへー。なんにもしゃべらないってか。独り言言うもの飽きてきたぞ」

そこへガチャリと扉が開かれる。兵は一斉にそちらへ膝をつき、こうべを垂れた。

「久しぶりだねぇ、フーシィ。ちょっとやつれたんじゃないかい?」

「おかげさまでな、ザリィバ。あんたは少し肥えたんじゃねえか?」

ピキ、とザリィバは額に青筋を浮かべる。そのまま力任せにフーシィの牢屋を蹴った。

ガシャアンと大きな音が地下に響き渡る。

フーシィは表情を変えず、依然として薄い笑みを作っている。

「あんた、レディに対する態度がなってないねぇ。女性に体型のことを言うのは失礼だよ」

「ええ~~ここにレディなんていたかなぁ。おばさんならいる気がするけどー」

「つくづくムカつくやつだねぇ、あんたは!そんなんだからいつまでたっても恋人の一つもできないんだよ!」

「彼女いたことありますー!今は、いないだけですー!」

ザリィバはため息をつき、体勢を整える。着物の布ずれの音がシュルリとなった。

「あんたとは昔から気が合わなかった……今みたいなやり取りを何度やってきたことか……」

彼女は煙管キセルに火をつける。フー、と煙を吐き出し、にこりと笑った。

「それも今日でおしまいだね」

「今日……?俺の処刑は明日のはずじゃ?」

「いいや、今日だよ。さっき知らせを出した。既に準備は整ってる」

コツ、コツ、とザリィバは牢屋に近づき、フーシィの顔を覗き込む。

「あんたのことだ、どうせフィオラとなにかやろうとしてたんだろうが、そうはいかないよ」

「………!」

「ははは、何十年の付き合いだと思ってるんだい?あんたの考えることなんて、手に取るように分かるのさ」

スッとザリィバは姿勢を戻し、再び煙管キセルを吸った。

「ああ、勝手な行動はしないことだね。あんたの愛しいスイリンの首が吹き飛ぶのが嫌ならねぇ」

「あ?」

「おやおや可愛らしい顔をするもんだ。言ったろう?あんたの考えることは手に取るように分かるって」

ザリィバはチロチロと舌を出し、凶悪に嗤う。

「皇族全員の首には爆弾つきのチョーカーをつけさせてあるよ。あの人達は大切な家族からのプレゼントだと思ってるけどねぇ」

クスクスとザリィバは笑いながら出口へと向かう。

「あんたはそこで大人しく、残り数時間の命と向き合っていな。さようなら、フーシィ」

扉が閉じられる。フーシィは無言でザリィバの後ろ姿を見ていた。




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