第30話

「もうあんたは終わりさ」

にんまりと笑い、ザリィバは嬉しそうにフィオラへ告げた。

「きっとあんたは処刑される。私だって悲しいんだよ?でも仕方がないのさ。あんたが怪物けものを陥れるなんて恐ろしいことをしたんだから……」

(あくまで自分はこの事件に関係ないと言いたいのね。わたくしが見た蛇の影も、顔がはっきり見えなかったから、否定されたらザリィバが犯人だと断言はできない……)

ならばザリィバが犯人であるという確証を、今ここで得るしかない。

「……わたくしは犯人が分かっていましてよ、ザリィバさん」

「あらあら、自分が犯人じゃないっていうのかい?」

「ええ、わたくしはずっと、貴女だと思っておりますわ………ザリィバ」

フィオラの言葉を聞くとザリィバは声をあげて笑った。

「私が?犯人だって??あっははは、随分と面白いことを言うもんだ。どこにそんな証拠……」

「畜生がよく喋りますわね」

ザリィバが言葉を止める。彼女の喉元がヒュッと音を立てた。

「あんた……今、なんて言った?」

静かに、彼女は尋ねる。変わらぬ口調でフィオラは答えた。

「よく喋る、畜生だと」

「お、ま、ええええええええ!」

ガシャンと牢が揺れる。彼女はふーふーと息を荒げ、フィオラへ牢屋越しに顔を近づけた。

「二度ならず、三度までも……!私のことを畜生だと言ったね!?この美しい私を!畜生と!!」

今にも噛みつきそうな様子で、ザリィバは青筋をたてて叫ぶ。彼女の顔の部分は狂暴な蛇へと変わっていた。シャアアアと威嚇をする彼女に、フィオラは眉を歪め、イタズラが成功した少女のように嗤った。

「あらあら。二度ならず三度……?わたくし二回しか、貴女を畜生だと言っておりませんわ。どこか別の場所で、わたくしが貴女を畜生と呼んでいるのを聞いたのでしょうか……例えば、魔族と密会した時とか?」

そこで初めて、ザリィバは己の失態に気がついたようだった。あっと口をおさえたザリィバは、人間の顔へと戻る。しかしすぐに体勢を立て直すと、元の余裕のある顔でフィオラのことを見下した。

「今から私だって分かったからってなんだと言うのさ。お前はすぐに処刑される。

ストーリーはこうさ。人間は前々から怪物けものの住みかを探っていた。そこで怪物けものの国の王子を助け、この国に侵入した。さらには魔族と結託し、怪物けものの国を滅ぼそうとした!フーシィはその手伝いをしたことにすればいい。あいつは変なところで頭がキレる。厄介払いできて良かったよ」

「そのストーリーにはいくつも穴がありますわ。ハイリン様が信じるとは思えません」

フィオラの言葉を聞くと、ザリィバはクククと体を震わした。

「純粋なやつだねぇ!あんたは!信じる信じないじゃない。。既に宮中は私の手のなかさ!もうあんたは何もできない。殺されるのを待つしかない」

邪悪に、彼女は笑みを浮かべる。

「家族に対する情はないのですか?」

「家族ぅ?」

バカバカしいとザリィバは首を振った。

「血の繋がりなんてね、私が権力を手にするための道具でしかないんだよ。レイリオもハイリンもしばらくしたら殺してやるさ。この国に王は一人しかいらない。私こそが!最も敬われるべき生き物だ!」

フィオラは露骨に顔をしかめる。

「さぁて、ここまでは良いとして。問題はあんただ、フィオラ。やはりお前は美しい。手元に置いておく奴隷に、ちょうどいいんだよ。

あなたが私に仕えるというのなら、恩赦で見逃してやってもいい」

「お断りしま」

「だろうねぇ」

話を最後まで聞けと、ザリィバは人差し指を口に当てた。

「お前はそういうと思ったよ。だから、心を折ることにした」

パンパンとザリィバが手を叩く。扉が音をたてて開き、屈強な男たちが部屋に入ってくる。

「凌辱された経験はおあり?」

楽しそうにザリィバが目を細めた。

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