第31話

私の人生は恵まれている。

この国の王族として生まれ落ちた時から、私という怪物けものは他人の上に立つべき生き物なのだと理解した。

実際、誰もが私に従った。両親や姉も、ちょっと演技をすればコロリと騙されて、思いどおりの行動をする。

富も名誉も私のもの、のはずだった。

父が次の王に姉を選ばなければ。

男の兄弟はいなかった。私は上から二番目の子供だから、姉さえ蹴落とせば私が王になれた。

勿論王位を狙った。だが姉はすべての策略をさらりとかわした。私もまだ幼く、姉を退けることができなかった私は、父にねだるしかなかった。頭の固い父は年功序列だと姉を王にした。

(私の方が何倍も賢いのに……)

確かに姉は優秀だ。冷酷な判断も、他の兄弟に比べたらできる。だが肝心なところで保守的になる、つまらない怪物けものだ。

やはり私が王になるべきだ。

姉が王にいる間は準備期間とすることにした。

怪物けものは(個体にもよるが)見た目があまり変わらず、死ぬというときになって一気に老化する。姉は昔と変わらず綺麗な顔をしているがもう歳だ。次は私の番。邪魔なレイリオは既に奴隷になっているはずだ。

そう思っていた矢先、レイリオが帰ってきた。余計な人間を連れて。

あの時……レイリオを目の前にした時、刺し殺さなかった私を誉めてあげたい。どれほどの苦労をしてお前を追い出したと思っているのか。

だが私は幼い頃とは違う。昔よりもさらに賢くなり、知識も増えた。

今こそ、私が王になるときだ。

私に魔法を教えた魔族も言っていた。私は天才だって。魔法を使うために必要な精神を既に構築している、人の上に立つべき怪物けものだと誉めていた。

姉は気がついていない。三種属の不可侵協定は崩れつつあるということを。

この国には私が必要なのだ。

舞台はすでに整った。

「あとはあんたが踊るだけ。ね?ハイリン?」

「………ぅ?」

広間にて。ハイリンは椅子に座ったまま意味のない声を発した。彼女の頭には冠のように赤く光る文字列が浮かび、脳にインストールするかのようにぐるぐると回っている。

「あんたの精神力は凄まじかった。どれだけ魔力を使っても精神に干渉する隙がなかった。だから疑心暗鬼に陥れ、精神を弱らせた。フィオラが裏切ったと聞いてやっと折れるとはね」

ザリィバはハイリンの頬に触れ、つー、と頬筋を長い舌で舐めた。

「ふふっ……黙ってれば、あんたも良い顔だね」

コンコンと部屋がノックされ、ザリィバの従者が部屋に入ってくる。

「レイリオ様の処置も、完了したようです」

それを聞くとザリィバは今までになく、凶悪に、にったりと嗤った。カカカカと喉の奥から笑いが込み上げてくる。

ついに宮中を私が掌握したのだ。

「あっはははははは!これで、これで私の、あたしの天下だ!はははははは!」


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