第32話
王族へは私が精神操作の魔法をかけに出向いたが、レイリオだけは私自身が動くことに納得がいかなかった。
ザリィバはレイリオを皇族と認めていない。
あんな軟弱で、簡単に騙されて売られて、挙げ句人間にしっぽを振って。
情けないったらありゃしない。
私が出向く価値もない。
だから私に従者として送られてきた(監視用なのだろうけど)魔族に任せた。無事に終わったとの報告だから、レイリオは今頃ハイリンと同じようになっているはずだ。
「お!終わったね」
フッとハイリンの頭の周りに浮かんでいた文字が消える。
「ん……?おお!ザリィバじゃないか!こんなところでどうした?」
ハイリンはいつもと変わらない様子で言った。
「ああ、ハイリンが目をつむってたから、気でも失ってるんじゃないかって心配になってね」
「ははは、そうかそうか。心配ない。ちょっとぼーっとしておっただけじゃ」
ザリィバは静かにほくそ笑んだ。
彼女へ魔術を施していた時の記憶は支配が完了した瞬間に消される。ハイリンは自分の意識がザリィバに握られていることすら気づくことができない。
「おっ!もうザリィバもいたのか!」
スイリンが広間に入ってくる。
「ハイリン様が急に呼ぶなんて何事かと思いましたが、ザリィバ様もいらっしゃるのでしたらだいたい内容は分かりました。フィオラのことですよね?」
「ああ」
低く、ハイリンは返事をした。
「あやつは私の甥であるレイリオを殺そうとした!さらには私の首までも……許せん。やはり人間など信用できぬのじゃ!」
「甥……?」
ハイリンの言葉にスイリンが首をひねる。
(しまった……彼女にかけている暗示はまだ弱い……)
ハイリン同様、スイリンも精神力が強かった。それに弱らせる方法がうまく思い付かない。なんといってもザリィバは彼女との交流が少なかったのだ。彼女の弱点など知ることもできなければ作ることも難しい。今かけられる魔法は、これから起こる出来事に疑心の心を持たしづらくすること。気は抜けない。
「早速議題に入りましょうか。姉上。
今から話すのは機密情報。会話をながびかせてその隙に誰かに聞かれたりしたら……」
「そうじゃな。さて……まずフーシィのことじゃが、いまだ見つけられていないそうじゃな」
は、とスイリンが頭をさげる。
「申し訳ありません。全力で捜索にあたってさいるのですが、昔からフーシィ様は逃げ足が速く……」
「言い訳は聞いておらぬわ!私はいつフーシィをここへ連れてくるのかと聞いているのじゃ!」
「申し訳、ありません!」
ハイリンは肩で息をする。普段の落ち着いた彼女であれば考えられない怒り方だが、今ここにそれを指摘する者はいない。
「まあまあ。いいじゃないか。逃げるといっても場所は限られているからさぁ」
「そ、そうじゃな」
フーっとハイリンは息をついた。
「それでフィオラのことじゃが……これはとりあえずお主に任せて良いのじゃな?ザリィバ」
「おまかせください姉上」
にこりとザリィバは微笑む。ハイリンの中では、そういう事前相談をザリィバとしたことになっている。
「うむ……そうしたらフィオラのことはザリィバに一任するとして、フーシィは捉え次第、城の前の広場で火にかけることにした。見せしめじゃ」
淡々とハイリンは告げる。
「そして私の次はザリィバに譲るぞ。血縁関係で言えばレイリオも候補に入るが、あやつは王になるには軟弱すぎるからのぅ。ザリィバが適用じゃろう。頼んだぞ」
「は、ありがたく承ります」
ハイリンの言葉にスイリンも納得したように頷いた。
(順調。全てが順調だ)
広間を出たザリィバの足取りは自然と軽いものとなる。
「さて、フィオラはどうなっているかねぇ」
意地悪く笑いながらザリィバは地下室の扉を開けた。
「なっ………!」
ザリィバは地下牢の前でポカンと口を開け、後ずさる。裾に入れてあった扇子が床に落ちた。
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