第29話

(蛇………!)

脳内にすぐザリィバの姿が浮かぶ。

やはりか、とフィオラは思った。

ここ数日間、怪しいと考えていた三人と行動し、最も信用がおけなかったのがザリィバだった。

だからこそ、フーシィが黒幕だという証言に違和感を覚え、魔力の大量消費というデメリットを抱えて調査することにしたのだ。

(想定していたけれど………これは悪手だったかしら)

強烈な眠気がフィオラを襲う。既に魔力は底をつき、一歩も歩くことができない。

(アルマを追って馬小屋に行くとき、レイリオを呼んでおくべきだった………?いえ、レイリオは今衛兵と自室にいますわ……わたくしの元へ呼ぶ前にアルマを見失ってしまうでしょう……

……あと少しでも体が動けば……!首謀者はザリィバだと、伝えることができるというのに……)

ついに立っていることができず、フィオラはその場に倒れた。

土の冷たい感触が頬にしみる。

そのままフィオラは意識を失った。


(冷たい………)

冷たく、固い地面の感触。うっすらと目を開けると、ここが薄暗い室内であることが分かる。

まだ視界がぼんやりとして安定しない。魔力を一度に大量消費した代償で全身がだるかった。

「ん……んん」

気合いを入れ体をもたげると、じゃらりと手の近くで音がした。

「あら……」

そこには手枷があった。ご丁寧に両手につけられたそれは、フィオラがいる部屋──地下牢──の隅から伸びている。

(わたくしが眠っている間にいったい何が………。そもそもわたくしはどれくらい寝ていたのでしょう。外の様子が知りたいわ)

そして一刻も早くザリィバの罪を暴かなくては。

そこではたりとフィオラは気がついた。

自身がアルマがよく行き来していた馬小屋で気絶してしまったこと。フィオラの確認なく手枷がつけられていること。つまり、フィオラが犯罪者であると、多数が納得しているのだ。そして自分が白だと訴える確実な証拠をフィオラは持っていないこと。そして、ここがアルマが収監されていた、逆賊が入れられる牢屋であること。

(もしかして……わたくし、首謀者と勘違いされているのでは!?)

おそらくはザリィバに陥れられたのだろうけれど。

ハアとフィオラはため息をついた。

そこでギイイイと扉が開き、誰かが地下へと入ってくる。

そこには予想通りの人物が立っていた。

「ザリィバ……様」

サアア、と血の気がひいていくのが分かる。怯えではない。怒りからだ。フィオラは裏切りや利己のため善良な他者を犠牲にする策略が嫌いだった。既に二回も人間の国で謀られ、挙げ句追い出された。

そしてこの怪物けものの国でも同じことが起ころうとしている。

(結局、人も怪物けものも、根本的な所は変わらないのね)

親切な者は親切だし、邪悪な者はどんな種族でも邪悪だ。当たり前のことだが、フィオラは元いた人間の国を出れば、少しは変わると思ったのだ。期待してしまった。親切にされ、気を緩めてしまった。邪悪な怪物けものは、すぐそばにいたというのに。

「あーあ。そんなに睨んでさぁ。私が憎いかい?フィオラ」

ザリィバは優しく微笑んだ。それは勝ち誇っているからこそできる笑みだとフィオラは直感で感じ取った。まるで小動物に向けるようにザリィバは柔らかく話し続ける。

「あんたがいけないんだよ。必要以上に王家に関わるから……。レイリオの護衛だなんだといって、ずっと側を離れないあんたがどれほど邪魔で目障りだったか!……ねぇ?」

ニィとザリィバは口の端をつりあげた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る