第16話 急報

「レイリオを助けてくれたんだって?」

女性にしては低い声だ。また、フーシィは薄いラフな着物を着ているのに対して、スイリンは軍服のような服を身につけている。

「はい!僕に酷いことをする奴らをやっつけてくれたんです!」

レイリオは自慢をするように言った。

「へぇ……か弱いお嬢様に見えるけどねぇ。あんた強いんだ」

「彼らが油断してくれたからですわ。運が良かっただけです」

「ふーん?」

探るような目でフィオラを見つめる。それを「こーら」とフーシィが止めた。

「俺が酒飲みならお前は好戦的すぎるぞ。賓客つってただろ……」

「別に今すぐやるって言ってないでしょ。あとでちょこっとだけ……」

「お前なぁ……」

ふむ、とフィオラは目の前の二人を見ていた。

三つ巴の状態ならば険悪な仲だろうと予想していたが違ったようだ。

「スイリン様ー!」

遠くで彼女を呼ぶ声が聞こえる。彼女の部下のようだ。

「今行く!……すまない、もういかなければ。話せて楽しかったよ。レイリオも……生きてて良かった」

ポンポンとレイリオの頭を撫で、彼女は立ち去った。

「まぁそーだな。ほんと生きてて良かったよ」

そう言いフーシィも立ち上がった。

「また話そーぜ?……あ、そうだ」

フーシィはフィオラを指さした。

「ザリィバには気をつけろよ。あいつ、大の人間嫌いだから」

それじゃあなーとフーシィは去っていく。

「嫌いなの?」

レイリオはうーんと唸った。

「僕はあまりザリィバおばさんには会ったことないんですよね。それこそ、こういう集まりじゃないと顔会わせないっていうか………」

「ふーん。………そういえば、スイリン様とはどういう関係なの?おばさん?」

「スイリンは皇族じゃないよ。この国の軍隊長なんだ。まあその他に地位もあるけどね」

「軍隊長……」

「うん!いい人でね、みんなから信頼されてるんだぁ!僕にもよくお菓子くれたなあ」

当時を思い出したのか口元を弛ませながらレイリオは言った。

(フーシィ、ザリィバはハイリンの兄弟。スイリンは軍隊長。跡継ぎ争いとしては一見血筋の良いフーシィとザリィバが怪しく思えるけれど、スイリンが軍をひいてクーデターを起こしたら……?部下からも慕われているようでしょうし、やることは可能ですわね)

「そういえば……レイリオ」

「はい!何でしょう!」

「やっぱり貴方のことレイリオ様って読んだ方がいい気がします」

「え!」

レイリオはあからさまにショックをうけた顔をした。だが他の怪物けものが様をつけているのに自分だけ呼び捨てにしているのは反感を買うだろう。加えて自分はただでさえ恨まれやすい人間である。

「二人きりの時はレイリオって呼ぶから、ね?それと……わたくしのことも呼び捨てでいいわ。わたくし、貴方ともっと親しくなりたいの」

「分かりました……」

そう言ったが不服だというようにレイリオは口を尖らせた。


シャラン、鈴の音が聞こえた。

「ほぉ……レイリオ、大きくなったじゃないか」

背後からの声に慌てて振り向くと、そこにはゆうに180センチは超えるであろう長身の女性がいた。黒の長い髪を豪華な簪でまとめ、赤・白・黒で構成された着物を着ている。肌は透き通るように白く、赤の切れ目が興味深そうにフィオラを見下ろしている。

「ああ、名乗るのを忘れていた。私はザリィバ。ハイリンの妹だよ。レイリオの伯母だね。さっき二人に話しかけてたフーシィは私の腹違いの弟だよ」

フィオラのためだろうか。ザリィバは会場にいる人物を一通り紹介した。ザリィバの母親はハイリンと同じであること。スイリンは軍を率いているが、その皇族の血も混じっていること。

その他にも、大臣、秘書、護衛のこと。

フィオラはその全てを頭にメモし、お礼を言った。自己紹介をし、お互い座りながら酒を嗜む。

「この国に人間が来るのは久しぶりさ。私はあまりこういうイベントは好かないが、今日だけは人間を観察しにいこうと来たんだよ。元気そうなレイリオにも会えたし、来て良かった。

フィオラが美しい容姿だと言うことも確認できたしねぇ」

「フィオラさ……フィオラが綺麗だと何か良いことがあるんですか?」

レイリオの問いにザリィバはクスクスと笑った。

「ああ。勿論さ。美しい者は近くに置いておいて気分が良いだろう?美しい……それだけで生きている価値がある」

ザリィバは微笑んだ。なるほど、その言葉を言うにふさわしい美しさだ。ハイリンの美しさを"麗しい"というならザリィバは"妖艶"。人を目を惹き付ける、不思議な魅力があった。

「正直、私は人間が嫌いだよ。傲慢で愚かしい生き物だからね。だがレイリオを助けたというのならその限りではないんだろうし、綺麗な顔をしているからね。今重要なのは私の味方かどうかよ」

ちら、とザリィバは遠くにいるフーシィとスイリンを見た。

(肩入れするなと言いたいのね……)

フィオラがそう考えたときだった。

ビーーーーっとサイレンの音が響く。

「何事だ!」

ザリィバは近くにいた従者に尋ねた。

「火事です!"外"の森で火が!」


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