第21話

レイリオは引っ掻き、切り裂き、噛みついた。魔族は呪文を唱え、火や氷の弾を放つ。が、それをレイリオはなんなく避けた。

だが敵のなかには手練れもいた。短い詠唱で大量に氷の弾を作り、レイリオに撃ち込む。足や肩に、何個か被弾した。

「ギャウッッ」

レイリオは悲鳴をあげた。ヴァルモンが愉快そうに口を歪める。それをフィオラは見ていることしかできなかった。

「ふふふふ!大見得をきっておきながらその体たらく……みっともないですねぇ。おや、貴女、左手から血が出ているではないですか。先程も我慢しながらしゃべっていたのですか?強気な女は嫌いじゃありませんよ……まぁ、実力が伴っていないから滑稽ですけれどね。ですが、人間にしては頑張った方だと思いますよ?

……もう魔力がないのでしょう?あなたはそうやって地べたに座り込んでいるしかない」

悔しいがヴァルモンの言うとおりだった。

フィオラはグッと左手を握りしめる。

クククとヴァルモンは肩を震わせた。

「フィオラを馬鹿にするな!!」

ヴァルモンにレイリオが噛みつく。ヴァルモンは片手でそれを防いだ。防御魔法をかけているのだろう。涼しい顔でレイリオを眺めている。

「正直、私はあなたを舐めていましたよレイリオ。私自慢の兵がこんなにやられるとはね。だがまだ経験が足りない。温室育ちでぬくぬく育ったんだろうなぁ……。だから騙される。だから売られる」

「うるさ……ヴッ!」

ヴァルモンが勢いをつけて腕を動かすと反動でレイリオは吹き飛ばされた。フィオラは体を丸め、彼を受け止める。

「もう終いでしょう」

ヴァルモンは二人を見下し、パンパンと二回手を打った。

「さて……レイリオは殺すとして、そこのあなた」

とヴァルモンはフィオラに手を差し出す。

「私のことを侮辱した罪は重い。しかし私も鬼ではない……」

ヴァルモンは優しく微笑む。

「さっきの発言を取り消し、誠心誠意詫びると言うのなら、私の下で働かせてあげてもいい」

「…………」

フィオラはレイリオを抱き締めたまま、沈黙を貫いた。

「あなた方は負けたのです。維持をはることはありません」

「負け……負けねぇ……。失礼、"負け"とは何をもって"負け"と言うのでしょう」

「はい?」

フィオラの言葉にヴァルモンは笑顔のまま首をかしげる。

「純粋な武力で勝ち負けを決めるのでしたら、確かにあなたの勝ちですわ。しかし、あなたの目的はレイリオを殺すこと」

ふわりと部屋に風が吹く。ヴァルモンの顔がさっと青ざめる。

「まさか、貴様、」

フィオラを中心として、地面が光る。

「血で、魔方陣を………!!!」

ヴァルモンは血が出ているフィオラの左手をギロリと睨んだ。

突風が巻き起こる。

「ええ、レイリオが上手く時間を稼いでくれましたわ。確かに、わたくしの残された魔力では、このワープ移動の魔方陣をかくことしかできなかったので」

ワープ移動は魔法の中でも高難易度のものだ。確実に使うには念入りな準備とかなりの時間を要する。だからこそ、魔族はあらかじめレイリオの馬に陣を仕込んでいたのだろう。

フィオラが今血で描いたのは、簡易的なもので、行き先を細かく指定することはできない。

だがこの場から離れられるのであれば今は十分だ。

何人もの魔族が二人を止めようと襲いかかる。が、突風のせいで安易に近づけない。

「あなたの負けですわ!ヴァルモン!あなたにも、バックにいるにも、尻尾を振るつもりは全くありませんことよ!」

「この、この小娘がああああああああ!」

シュン、と二人の姿が消える。突風が止み、あとには血のみが残された。


「はぁ……はぁ……」

森のなか、二人は地面に倒れていた。

「流石です。まさか、ワープを使えたなんて……」

「まだ修行している最中なのですけどね……とりあえず、危険な場所にワープしなくて良かったわ。さて、ここはどこでしょう………」

フィオラがキョロキョロと辺りを見渡すと、ピョコンとレイリオが耳を立てる。

「誰か、誰か来る!」

がさがさと木々が揺れる。

ひょこりと現れたのは

「え?」

「んん?」

竹竿を持ったフーシィだった。






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