第22話

「えーっと?」

ポリポリとフーシィは顎を掻く。

気まずそうに視線を彷徨わせた後、

「大丈夫?」

と声をかけてきた。

「……フーシィ様はなぜこんな場所に?」

半目でフィオラは尋ねる。

「いやー、王宮内がさ、てんやわんやの大騒ぎで……なんつーの?居心地悪くてさぁー」

それで気分転換に釣りをしようと池に向かうところだったそうだ。

「フーシィおじさん……変わってないね」

あははと力の抜けた笑い方をしてレイリオは言った。

「さ、て、と。お前たちを王宮へ帰さなきゃな。見つかって良かった良かった」

レイリオの背中を叩きながら、フーシィは元来た道を戻る。

レイリオもその後に続き、歩き出した。

(フーシィさんの口振りから、ここは首都よりあまり離れていない場所らしいわね。良かった………ん?)

ふと、道の外れに目が吸い寄せられる。赤い何かが道に落ちていた。

もっとよく見ようとフィオラは体をそちらへと向ける。

「どうした?フィオラさん」

フィオラの視界が遮られる。見上げればフーシィが目の前に立っていた。

「そっちは森しかないよ?」

早く帰った方がいい、とフーシィはフィオラの背中を「さあさあ」と促すように押した。

ちらりと同じ場所に目をやると、一瞬ではあったがソレの一端が見えた。


王宮へ戻るとハイリンはわなわなと震え、二人を勢いよく抱きしめた。

「おお、よくぞ、よくぞ戻ってきてくれた!よもや魔族がお主を狙ってくるとは……あやつらめ……!」

ググ、とハイリンの腕に力が込められる。

「は、ハイリン様、痛いですわ、少し」

「母上、絞めすぎ……」

二人の声にハッとしてハイリンは体を離す。

「失礼した。つい………」

と顔を赤らめる。

「本当によく帰ってきてくれた。フィオラにはあとで褒美を贈ろう。フーシィも、森まで探しに行ってくれたのであろう?礼を言うぞ」

にこりとハイリンは美しく微笑む。

「いや俺は釣り……んん゛っ!

………そーですねぇ。運良く二人が見つかって良かったです」

ジーっとフィオラとレイリオはフーシィを見る。誤魔化すようにフーシィは視線を反らした。


宴はとっくに終わっていた。というより、レイリオが消えたと情報が入ってから、捜索をするため宴どころではなくなっていたのだと。フィオラとレイリオの姿を見ると、一目散に駆け寄って、いや、飛んでくる鳥がいた。

「レイリオーー!フィオラーー!!ごめんなぁーー!」

スイリンは目に涙を溜め、二人の前で急停止をした。砂ぼこりが舞い、二人はゴホッゴホッと咳き込んだ。

「無事で良かったよ!ほんと!君たちに何かあったら腹切る覚悟だった!」

ほっとスイリンは息をつく。

「お気になさらないでください……。わたくし達は無事でしたし、スイリン様が一生懸命私わたくし達を守ってくださっていたのは見ておりますから……」

「そうかい……?」

スゥゥっとスイリンの顔は人間のものへと戻る。

「今回の件について、ハイリン様と話し合ったんだ。フィオラとレイリオの意見も聞きたいと思っていてね。ちょっといいかな」

スイリンに案内されるまま王宮の中へと向かう。入る時、ふと上を見上げるとフィオラとレイリオをじっと見つめるザリィバがいた。目が合うとすぐにザリィバは視線を外し、屋敷の中へと戻る。

「…………」

「フィオラどうしたの?」

レイリオの問いに「いいえ」とフィオラは首を振った。

「なんでもないわ」


食事が運ばれてくる。

レイリオとフィオラはハイリンとスイリンに向き合って座っている。そこはいつもの広間ではなく、畳が敷かれた小さい部屋だった。ぼんやりと灯りがともされ、全員の顔つきは真剣そのものだ。

「ここは王族にしか使うことができない部屋じゃ。よく調べたから盗聴される心配もない。こういった会談にはぴったりの場所だろうて」

ハイリンは目の前にある漬け物を口に運ぶ。

それを見た後、スイリンが口を開いた。

「今回も魔族の襲撃には通常のものと異変が二つありました」

一つ、とスイリンは人差し指を立てる。

「お二人も分かっているとは思いますが、レイリオ様が乗っていた馬の細工です。あのように、確実に狙った場所へと対象をワープさせる魔術は、仕掛けるのに数日かかると言われています」

ですよね?とフィオラへスイリンは尋ねる。彼女は頷くことで肯定を示した。

「とすると、私達は気がつかない間に魔族からの干渉を受けたいたことになります。魔族が侵入したか、魔族が造った"馬"をこっそり紛れこませたか………」

ふーっとハイリンが長いため息をつく。

「いずれにせよ、由々しき事態じゃ。ここ何百年もこのような自体は起こり得なかった」

ハイリンは右手で頭を押さえる。

「続いてもう一つ、あまりにも、魔族があの現場に到着するのが早すぎるのです」

スイリンは一度お茶を飲み、肩の力を抜く。

「私はこれまで、この国の騎士として、魔族と戦うことは何度もありました。しかし、今回ほどスムーズな襲撃は経験したことがありません。あの動きは、事前に情報を掴んでいなければ不可能なものです」

「それに……彼らはレイリオが火を消しにくることを知っていたようでしたわ」

フィオラも言葉を付け足す。

「それって……つまり」

レイリオが顔を暗くした。

「内通者じゃ。魔族と結託し、この国を滅ぼそうとしている者がおる」



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