第35話
小屋には暖炉が設置されており、そのそばには大きなロッキングチェア二つが置かれている。
フィオラはそのうちの一つに腰をおろし、男を待っていた。
男は救急セットを持って現れると、フィオラの傷口にアルコールをつけた。
「……っ」
「しみるか?」
「ええ少し……。あの、そんなに丁寧に治療していただかなくても……これくらいの傷、治療魔法ですぐに治せますわ」
「治癒魔法ですぐに傷を塞ぐことはできるが、病原菌を完全に取り除いて治しているわけじゃない。治癒魔法にばかり頼っているといつかガタがくるぞ」
「……」
フィオラは何も反論できなかった。フィオラ自身がそれを体験していたのだ。
父が死に、身の回りの従者さえも信用できなくなっていたとき、傷や病は全て自力で治していた。傷に入った病原菌によって風邪をひいても、その風邪も治癒魔法で治せばいいと考えていた。
そうして魔法を乱用していたある日、フィオラは倒れた。近くにメイドがいてすぐに医者に診てもらえたから良かったものの、そのまま放置されていたら命が危なかったらしい。
パチ、と暖炉の中の薪が弾けた。この暖炉も、椅子も、少し遠くに置いてあるテーブルも日常的に使われた跡がある。ここは彼の家なのだろうか。
「あなたは……何者ですか?」
「さぁ……何者だと思う?」
男はフィオラの傷口に軽く指を当てる。
「[Wthk}」
彼が呪文を唱えると、フィオラの傷はみるみる塞がった。
「あなた……」
彼の唱えた呪文は、人間が使う祝詞ではない。
人は神の力を借りるために祝詞を唱える。
しかし彼のものは、それとは発音の異なるものだ。
「気づいたか?そう、これは
男はローブのフードを取る。彼の頭には二つ、山羊のような黒い
「怖がらないんだな」
「予想はしておりましたので」
「ふぅん」
つまらんと男は向かいの椅子に座った。
「目的はなんでしょう?」
「ふっ、雑談はなしか。まあいい。俺も回りくどいのは嫌いだ」
男は膝の前で手を組む。
「俺の名前はヴォルクという。魔族の中ではけっこう高い
ふぅ、とヴォルクはため息をつく。
「調べるうちにとある
そこでだ。
そこでフィオラは現状を理解した。ツー、と頬を冷や汗がつたう。
「ん、分かったな?そう、俺は
なあ、どういうことだ?
ヴォルクはフィオラに笑いかける。が、その目は笑っていない。話を聞く、とは言っているが、素直に離さなかった場合、尋問や拷問をするつもりだろう。
(さぁ、なんて答えるべきかしら?)
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