第34話

フィオラはトンネルのなかを走る。なかは薄暗いが、一本道のため迷うことはなかった。突き当たりまで行くと地上へのびる梯子があり、楽に地上まで行くことができた。

(フーシィさんの言った通りでしたわ)


『地下室には秘密の抜け道がある。一部だけ壁が薄くなっているから、壁を叩きゃすぐ分かる』


彼が城から逃げた後、レイリオの部屋を捜索したところ、ベッドの下に一枚のメモを見つけた。それに書いてあった言葉だ。

あのときはなぜこんなことが書かれていたのか分からなかったが……彼はこの展開を予測していたのだろうか?

「とにかく、彼に感謝しなくてはなりませんわね」

地上は森だった。

右を向いても左を見ても、道と呼べるものがない。

ただ少し外れた場所に、葉で隠されるようにして、魔方陣が描かれている。おそらく、これでザリィバは魔族の元までワープしていたのだろう。

フィオラは口に手を当て、しばし黙考する。そんな彼女に何かがぶつかった。

「失礼」

ぶつかってきたのは背の高い男だった。黒い髪は肩の方まで伸び、首に沿うようにカットされている。鋭い緑の瞳は、炎のように苛烈に燃えている印象を受ける。彼は黒のローブを着ており、全身が黒に包まれている。

「いえ……」

大丈夫だとフィオラが答えようとした時、男の目線が彼女の足へと向けられる。

「血が出ている」

男の目線の先へフィオラも目を向ける。何かで切ったような痕があり、血が流れ出ている。出血量は少ないので、さっき通ってきた道に血痕を残してきた可能性は低いが、今治療しなければ病原菌が侵入する可能性がある。

「ああ……教えてくださりありがとうございます」

フィオラはお礼を言い、この場を去ろうとする。その肩に、しっかりと手が置かれる。

「?」

「君、ここの道分からないだろ」

(なぜ今そんなことを聞くの?)

フィオラの体に力が入る。彼の質問の意味とは……。そもそも、なぜこんな場所に人がいるのか。彼は何者なのか……。

答えないでいるフィオラに、男はカラカラと笑った。

「はは、そんな警戒しなくていいのに。君が行こうとした道の先にはさ、崖しかないから。そんな場所普通いかないだろう?だからこの地域に詳しくない人なんだろうなって思っただけだよ」

わたくしが崖に行きたいと思っているだけかも知れませんわよ?」

「それなら余計なお世話だったね。俺は近くに建っている小屋を知っているから、君が迷っているんだったらその小屋に案内して、足の治療を……と思っていたんだが」

男は残念だというように肩をすくめた。

フィオラは男をじっと観察する。

「何が目的ですの……?」

「ん?女性が怪我をしていて放っておく男はいないと思いますが?」

にこにこと男は微笑む。なんだか、胡散臭い男だ。

「意外といるものですよ?」

「へえ、そうなんですか?」

「……はぁ、分かりましたわ。お言葉に甘えます」

「それは良かった。こっちです」

その小屋は二分も歩かない場所にひっそりと建っていた。男は扉を開け、フィオラを中へ招きいれる。フィオラは周りに注意を払いつつ中へと入った。フィオラが男についてきたのは、彼の素性を探るためだ。彼がザリィバの仲間ならば尋問し、情報を吐き出させる。もし自分よりも強かったとしても、フィオラならば逃げることが可能だ。ザリィバに何も関係ない人物だったらそれはそれでいい。

さてこの選択が吉と出るか凶と出るか。

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