第24話

「なかなか口が固くてね……手を焼いたよ」

はあああっとスイリンは大きくため息をついた。本来、こういったことは苦手なのだろう。

手についた血も早く洗いたくてしかたがないようだった。

「あの馬は魔族があらかじめ用意したものをアルマが"外"で受け取り、馬小屋に仕込んでおいたそうだ。おおむね予想通りだね。でも誰に指示をされたかを絶対に吐かない。自分が独断でやった!って繰り返すんだよ。………はぁ、これ以上やったら死んじゃうから一回休憩させてるけど、アルマはなかなか口が固いやつだったんだねぇ」

スイリンはもう一度深くため息をついた。

「ってことで、一回解散かなー。ごめんね、こんな長く拘束しちゃってさ。二人とも疲れてるのにねー」

手で謝る素振りを見せ、スイリンは去っていった。

「フィオラー……部屋戻ろ?」

フィオラは優しく頷き、二人は部屋に戻る。

レイリオは扉を開けると、一目散にベッドへとダイブし、スリスリと布団へ頬擦りした。

王族らしからぬ行動だが、今日くらいは目を瞑ろう、とフィオラはソファーへ深く腰を掛ける。

用意した紅茶を飲み、脳内で状況を整理する。

怪しいと考えていた三名のうち、スイリンに関してはかなり候補から外れたと言っていいだろう。もちろん、親切にしているのは表の顔で、裏では根回しをしている可能性も捨てきれないが、それにしては彼女は自身の不利になることをしすぎている。実際、さっきの魔族の襲撃の件で、彼女は全責任を負い、後継者の地位から距離が遠くなったそうだ。

そうすると残るはザリィバとフーシィ。二人ともまだあまり話したことがないし、動きもうまく掴めない。特に気になるのはフーシィの方だ。なぜあの時、彼はわざわざ釣りに行っていたのだろうか。森に落ちていた赤いもの。あれはスカーフだった。

この国の騎士は、国に忠誠を誓うのは前提として、その他、各々の主に忠誠を誓っている。ハイリン直属の騎士は金、フーシィ護衛の騎士は緑、スイリンの隊に入っている騎士は水色、そしてザリィバの護衛は赤のスカーフをつけている。

去り際に見えたのは怪物けものの足だった。あの森に倒れていたのは、ザリィバの騎士だったのではないだろうか?

(悶々と考えていても、仕方がありませんわね)

フィオラは立ち上がると、部屋の扉を開け、外で待機している騎士に話しかける。ちなみに彼の右手についているスカーフは金色だ。

「いかがいたしましたか?」

「フーシィ様を呼んでいただきたいの。私はレイリオの側を離れることができないから。もちろん、フーシィ様のタイミングで構いませんので」

「は、かしこまりました」

フィオラは部屋に戻り、部屋全体に魔法をかける。レイリオにフーシィが来る旨を伝え、待った。数刻の後、フィオラとレイリオが雑談をしているところにノックの音が鳴る。

「どうぞ」

ガチャリと扉が開き、ヨッと手を振ってフーシィが入ってくる。

「お待ちしておりましたわ。どうぞこちらへ」

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