第19話 魔族

「えっ」

レイリオが声をもらう。フィオラは魔族から庇うようにレイリオを抱き締めた。

「話にならないね」

スイリンは剣を引き抜いた。

「レイリオは渡さない。お引き取り願おうか」

「残念だ」

先頭に立っている魔族が手を上げ、前に下ろす。

一斉に魔族は飛び立った。

「来るぞ!」

スイリンが叫ぶ。それぞれの怪物けものの顔が動物のものへと変化する。

フィオラは周囲を見渡しつつ、レイリオの側にいることを選んだ。

「僕だって戦えます!」

「だめ。あなたを守れって、ハイリン様に言われておりますの」

フィオラは前に目を向ける。木々が燃え尽き閑散としていたそこは、戦場へと変わっていた。

魔族が呪文を唱える。空から鋭い氷が迫り、怪物けものがそれを切り砕く。背後から迫る火を怪物けものの尻尾でなぎ払う。

フィオラも残りの魔力を使い、ちょいちょいと指先を動かして魔法を使う。背後から切りかかろうとしている魔族を気絶させた。

実力は怪物けものの方がやや勝っている。が、勝負は一瞬だった。

スイリンはメキメキと背中から羽を生やすと、消えた。否、上へと飛んだのだ。あとには焦げ茶の羽が残る。

彼女は刺すように落下した。その速度は凄まじく、集中して見なければ彼女の後を目で追うことすらできない。

悲鳴をあげ、魔物が倒れていく。

「って、てめぇ!!」

余裕をなくし、先程レイリオを寄越せと言った魔族が槍を構える。

彼はスイリンの剣を弾いた。

「は、ははっ!見たかよ!てめぇの剣なんざ、グハッ」

背後から剣が貫く。

「馬鹿め。一撃で終わるわけがないだろう」

グチュリと音を立てて剣が引き抜かれた。

「は、ははは」

かすれた声で、魔族は笑う。止めを刺しきれていなかったかとスイリンが剣を振り上げた時だった。


トプン、と。


レイリオの乗っている馬が溶けた。

馬はとろけ、黒い沼のようなものに変わる。足場をなくしたフィオラとレイリオはバランスを崩した。

「うわっ!」

「…………っ!」

フィオラは咄嗟にレイリオの手を掴む。

「レイリオ様!フィオラ!」

焦るスイリンの声を聞きながら二人は沼に包まれた。


視界が黒に覆われる。が、それは一瞬のことだった。突如、強い光りが差し込んでくる。

やっと目が慣れてくると、そこはどこかの室内であることが分かる。

「フィオラ……?」

繋いでいる手からレイリオの顔へと視線を移す。彼は不安そうに目を泳がせていたが、フィオラが無事だったことへの安堵の表情も読み取れた。


「お待ちしておりました」

若い男の声が耳に響く。

そちらを向くと糸目の男が張りつけたような笑みを浮かべ立っていた。深い緑の髪に白い肌。執事のようなスーツを着て、胸元に手をおいている。

「ここはどこ?」

怯むことなくフィオラは尋ねた。しかしその頬には冷や汗が一つ伝った。

「ここは我らが主のやかた……。少々手荒になってしまいましたが、あなたにお会いできて嬉しいです、レイリオ様」

彼は深々と頭を下げた。

レイリオはうつむき黙っている。心なしか、顔色が悪い。

「何が目的?」

「あなたには話しかけていないのですが」

わたくしはレイリオのことを女王から任されております……聞く権利はあると思うのだけど」

「………いいでしょう。先程の魔術操作、見事でした。あなたも戦力になるでしょうから」

「………?」

言っている意味が分からない。二人が黙っていると男は言葉を続けた。

「えー非常にショックとは思いますがね、あなたの国、怪物けものの国には裏切り者がいるのです。それは………」

とっておきの言葉を伝えるかのように魔族は言った。

「ハイリン様です」




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