第58話 次の場所へ

「それではお世話になりましたわ」

早朝、フィオラはもらったリュックを背負って怪物けものたちに別れを告げる。

その隣には嬉しそうな顔にニコニコしているレイリオがいた。


「じゃあみんな!行ってくるね!」

レイリオがそう声をかけると、ドッと従者たちは涙を流す。

「本当に行かれてしまうのですか!やっと会えたというのに!」

彼らの訴えにごめんごめんとレイリオは謝る。謝りながらも、彼は嬉しそうだった。

自分を止めてくれる存在がいるというのは何歳いくつになっても嬉しいものなのだろう。


「いつ帰って来ても良いぞ。ここにはそなた達の居場所じゃ。いつでももてなす用意はしておわ」

ハイリンはそんな言葉をかけてくれた。


(なんて温かい人たちなのかしら)


フィオラは改めてそんなことを思う。家を追い出され、流れされるようにたどり着いた国だが、ここでの思い出に胸がいっぱいになる。

国を出て大変なこともあったが、それがなければこの素敵な人たちに会えなかったのだと思うと、苦しかった経験さえも愛おしく思えてくる。

「 ありがとうございます。心から感謝いたします」

フィオラは"出口"へ向かうため、市場を歩く。

怪物の国の国民は今日もいきいきと店を開き、リ 賑わっている。

「レイリオ、少しだけ何か食べて行きましょうか」

「はい!」

かつてのように二人は 市場を歩いた。食べたものは全て美味で、思わずおいしい、と声に出る。

その様子を見て、町の人たちはいろんなおまけをしてくれた。

最初は喜んでいた二人だが、その量にだんだんと申し訳なくなり、逃げるようにして市場を後にした。


出口にたどり着く。 レイリオは何もない空間を掴み、壁紙を剥がすようにソレをひっぱった。 この国に来た時と同じように その空間が剥がれ落ち、外の空間があらわになる。

足を踏み入れれば、ぐるりと景色が変わる。

そこは数週間前にフィオラが歩いた道だった。レイリオもフィオラに続いて外へと出てくる。

「さて、どこに行きましょうか」

レイリオはワクワクしながらフィオラに話しかけた。

「次の目的地は決めてあります」

怪物けものの国は、外界との情報が入りにくいとはいえ多少のニュースは飛び込んでくる。


怪物けものの国で、フィオラはあるニュースを耳にした。

所属不明の兵士たちが、行方不明になったと。さらに、時を同じくして連続殺人事件が発生している。

そのニュースには人相が載っており、その人物の一人にフィオラは心当たりがあった。

かつて、グレイス家に仕えていた騎士の一人。お父様のせいで家を追い出され、その後行方が分からなくなっていた男だ。


放っておくこともできる。だが、彼はフィオラに優しくしてくれた少ない人間の一人だった。

それに元、とはいえ、グレース家の人間として、部下に何かあったのならば助けに行かなくては。今は亡きお父様もそうおっしゃるはずだわ。

(さて、戻りましょうか!人間の世界へ!)

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婚約破棄されましたけど、全く問題ございませんわ! Omeme @omeme_25

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