第57話 後の始末
森の中、男が走る。
ハアハアと息を切らして、執事のような服を着た男は森を駆けて行く。
猫目だった彼の目は見開かれ、その表情には余裕がない。
「あの女負けやがって………!
絶対に成功すると言うから、俺達も作戦に乗ったというのに」
男は時折後ろを確認しながら、必死に足を動かした。しかし足元に生えていたツタにつまずき、ベシャリと派手に転んだ。
男は逃げている。それに捕まったら死んでしまうことが分かっている。
男は息を切らし、走る、走る、走る。その体に何かがぶつかった。
ぶつかったものを見てヴァルモンは情けない悲鳴を上げる。
「あ、あ、あ……!申し訳ございませんでした!」
ザリィバと手を組み、
彼が必死に謝る相手は、魔族の王、ヴォルクである。
「随分と好き勝手やっていたようじゃないか。楽しかったか?」
にこやかにヴォルクは尋ねる。
「い、いえ!」
ヴァルモンは必死に首を横に振った。
楽しそうにヴォルクは言葉を続ける。
「ほぉ……お前は勝手に俺の兵を使ったというのに楽しくなかったのか。
お前はそんなつまらんことに俺の兵を動かしたのか」
ヴァルモンはもう何を言えばいいか分からず、息をするので精一杯であった。
「……お前は喋り方も忘れてしまったのか?」
「謹んで、申し上げます」
声を震わせてヴァルモンは話した。
彼は両ひざをつき祈るようにヴォルクへ訴える。
「
そうすればあなた様の力も世に知らしめることができましょう!
私は我ら魔族の繁栄のために動いたのです!計画は順調で、あともう少しで……!」
ヴァルモンは早口で話した。少しでもヴォルクの気を変えようと全力を尽くした。
「あなた様のお力を少々を貸していただければ、必ず、必ずや、怪物の国を手に入れてみせます!ですから……!」
「俺がいつ
ヒュッとヴァルモンは息を呑む。
ハァ、と目の前の男がついたため息に、ヴァルモンは自身の解答が間違っていたことを悟る。
「俺はお前が、俺の兵を勝手に動かしたことを怒っているんじゃない。
俺の使っている別荘を勝手に使ったことを怒っているのでもない。
俺は、俺の指示を受けずにお前が勝手なことをしたことを咎めているんだ。なぁヴァルモン」
ヴォルクは片膝をつき、ヴァルモンに目線を合わせる。
彼は笑っているが、その目の奥には冷徹な眼差しがある。
「魔族のため?俺のため?
そう思うのならばなおさら、俺の指示を待ってから動けべきだったな。
賢い者なら皆そうする。お前は自信を賢いと勘違いしたただのアホだろう。
……お前には分からないと思うが、人間・魔族・怪物、この三つの種族で守ってきたバランスというものがあるんだ。
それは我等の生態系に非常に大きく役立っている。
分かるか?それぞれの生き物には、それぞれの価値がある。
確かに俺は強い。生物としても優れている。だがそれは今関係ない。比べられるものではないのだ。
お前はそれを全く理解しないまま動いた。
危うく我ら全員に不利益を被るところだったわけだ。
分かるか?」
ヴァルモンは「はい、はい」と必死に頷いた。
ここを耐えれば、自分は生き残れる。やり直せる。説教をするということは、自分の次に期待しているということなのだ。いや、そうに違いない。
「大変申し訳ありませんでした次から気をつけますので」
「次?」
ヴォルクは嬉しそうに、凶悪に嗤う。
「次などあるものか!何のために俺が直々に来てやったと思っている」
ハハハハッとヴォルクを声を出して笑った。
全く予測しなかった返答に、ヴァルモンは必死に頭を回す。しかし何の解決策も浮かんでこない。
(このまま黙ってやられるものか………!)
ヴァルモンは奥歯を噛みしめ、コウモリのようなギザギザの翼を広げる。
そして呪文を唱える。
そこで彼の意識は途切れた。
ヴォルクは地面に倒れているヴァルモンをつまらなそうに眺めている。枯れの体は2つに別れ、地面に転がっている。
「ハァ……なんてめんどくさい仕事だ。
俺にこんなことやらせるなんてあいつめ、許さん」
ヴォルクは森を歩いて行く。風が吹き、彼の髪を揺らす。
「次はもっと楽しいことをしよう。
ああそうだ。確か、愉快な女がいたなぁ」
そんなことを呟きながら、彼は自分の根城へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます