第12話 急変

風が吹き抜ける。木の葉が一枚部屋に舞い込んでくる。それを拾い上げ、ふっと吹くと、ヒラヒラと回転しながら下へと落ちていく。

「フィオラ様、何してるんです?」

トトトっとレイリオがやってくる。ぼろ布のような服は捨て、今は黒の上質な衣装に身を包んでいる。

「この窓から町の様子がよく見えるから……」

フィオラは再び外へと視線を戻す。往来をたくさんの人が行き交い、商人は一人でも多くの客を呼び込もうと声をはっている。友達や家族とはしゃぐものもいるが、端のベンチで本を読んでゆっくりしているものもいる。

「やっぱりわたくしがいた国とは全然様子が違うわね」

「フィオラ様がいた国はどんな雰囲気だったんですか?」

「うーん……こんなに落ち着いた雰囲気ではなかったわ。貴族が派手好きな人ばかりで構成されてましたから」

コツコツと靴音を鳴らし、窓から離れる。豪奢な椅子に深く腰をかけると、レイリオも向かいの椅子にちょこんと座った。

ハイリンと別れた後、二人は広く、豪華な部屋を用意された。大きなベッドはきちんと二つ用意されているが、部屋の大きさはそれでも有り余るくらいだ。

ハイリンはこれとは別にフィオラの部屋を用意すると言ってくれたが、レイリオの護衛をする以上大して使わないだろうからと断った。

「あの……すみません、母が、その、フィオラ様に色々と」

「いえ、問題ありませんわ。この国の事情を考えれば警戒するのは当然のこと。むしろ、今日初対面のわたくしに、あなたの護衛を任せることに少し驚いたくらいですわ」

(身内にも敵がいることを考慮しなければならないなんて……ハイリン様は大変ですね。人間も似たようなものですが。まったく、後継ぎ争いは面倒くさいものですね)

フィオラは用意されたお茶を口に含んだ。

(おいしい………)

爽やかな香りが鼻を抜ける。帝国では飲んだことのないお茶だ。

「レイリオは大丈夫?まだ11か12くらいでしょ?……なのにあんな話……」

「えっと、僕25ですよ?」

「え?」

レイリオはどう見ても子供のように見える。

「じゃあ、大人……?」

「いえ、あと25年で大人です!」

そういえば、とフィオラは以前図書館で読んだ怪物けものの知識を思い出す。

怪物けものは動物に見えて動物ではない。人間よりはるかに寿命は長く、長命な者は300年生きると言われている。歳を数える単位は『年』だ。また、犬と猫のような怪物けものから、兎のような怪物けものが生まれることは珍しくない。知能は人間以上にバラつきがあり、聡明なものが国を治めている。頭脳は大抵親からの遺伝であるが、稀に親と子のIQに差が出ることがある。


「そ、そう。50年で成人なのね。………てっきり年下かと」

「気にしないでください。僕はまだ子供ですし、フィオラ様の国で言ったら、まだ12なんですから」

「そう」

フィオラはにこりと笑った。レイリオはフィオラの側まで寄ると、撫でてというように耳を倒す。フィオラは目を細め、数回撫でたあと、先程までレイリオが座っていた席に腰をおろした。

目の前のお茶をコクリと飲み、ふーっと息をついた。

「とりあえず、貴方の安全の確保と、ご家族の死因を調べましょ………それと、犯人も」

「犯人?」

レイリオが聞き返す。

それに答える前にフィオラの口からゴフッと血が溢れた。

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