第2話 小銭稼ぎ
ギルドの裏手には、倒した魔物などを持ち込む買い取り場がある。
魔物からは、魔道具の動力となる魔石の他に、毛皮や肉、牙や骨などの素材が採れる。
ベテランの冒険者になると、討伐した場所で解体まで行うらしいが、多くの冒険者は丸ごとギルドに持ち込んでいる。
たとえば、コボルトは魔石の他に毛皮と牙が買い取りの対象で、オークは肉も食用として用いられる。
ちなみに、食用に適さない肉も、街外れの処理場で加工されて堆肥として利用されているそうだ。
現代日本よりも、遥かにSDGsな世界なのだ。
「マサ! いつもの頼むぜ、三人だ」
声を掛けたきたカペルは、顔見知りの二級ギルド構成員だ。
ギルドに所属する者は構成員と呼ばれ、実績によって五級から特級までの六ランクに分けられている。
ちなみに俺も二級の構成員だが、掃除の腕前を買われての二級なので、腕っ節では全くカペルには敵わない。
百八十センチを超えるゴリラみたいな体形のカペルと、百七十センチそこそこで瘦せ型の俺では、見た目からして比べものにならない。
「毎度、一人二百リーグ、三人で六百リーグ、前払いだ」
「三人なんだから、ちょっとまけてくれよ」
「しゃーねぇな、三人で五百リーグ、これ以上はまけねぇからな」
「あぁ、それで頼む」
カペルから百リーグ銀貨五枚を受け取り、ポケットに放り込んでからワンドを抜いた。
オーケストラの指揮棒みたいなワンドは、ファングベアーの牙から削り出したものだ。
この世界では魔法を使う時に、魔力の通りの良い発動体を使うのが一般的で、このワンドが俺の発動体だ。
「クリーニング!」
軽くワンドを振って清浄魔法を発動させるとカペルの体がキラキラとした光の粒子に包まれた。
時間にして十秒程度、光の粒子が消えたところでクリーニング完了だ。
「おぉ、サッパリしたぜ」
俺の清浄魔法は、掛けた本人、服、靴、装備品の全てを一括で清掃するので、汗、埃、血脂、泥などの汚れを綺麗サッパリ取り除くのだ。
「そら、お前らもやってもらえ、金は俺が払ってあるから大丈夫だ」
「は、はい……」
カペルが連れていた若手二人にも清浄魔法を掛ける。
一回二百リーグ、日本円の感覚だと二千円程度で、稼ぎの少ない若手にはちょっと高価に感じる値段だが、普段は値引きはしていない。
俺が余り安い値段でやってしまうと、洗濯屋とか風呂屋とかの商売が上がったりになるからだ。
「クリーニング」
「ふおぉぉぉ……なんですかこれ、うわっ、服の汚れまで取れてる」
若手二人は初めてなので、お試し価格にした訳だが、どうやらリピーターになってくれそうな気配だ。
このクリーニングの魔法は、元々は自分が楽をするために編み出した魔法だ。
日本のような洗濯機は無いから、着替えは手洗いするしかない。
春から秋はまだしも、冬場に冷たい水での洗濯は辛い。
それと、日本のように湯船に浸かる風呂はあるけど、宿屋なら別料金、銭湯だと五十リーグ以上取られる。
水の貴重な地域だと、銭湯に浸かるだけで百五十リーグも取られる場所もある。
お湯にのんびり浸かるのは気分が良いが、放浪しはじめの頃には節約する必要もあり、このクリーニング魔法が生まれた訳だ。
「若手にもおごるなんて、景気良いじゃん。何か仕留めたの?」
「おぅ、フォレストウルフを上手いこと仕留められたんだ、毛皮の程度が良かったから、なかなかの稼ぎになったぜ」
「そんじゃあ、この後は祝杯か」
「そういうことだ、マサも後で顔出せよ、一杯おごるぞ」
「あぁ、気が向いたら寄らせてもらうよ」
カペルは討伐を生業としている中堅の中では一、二を争う腕前だそうだが、気さくな性格で若手からの信頼も厚い。
今日も若手二人の指導を兼ねて討伐を行ってきたのだろう。
早めに街を出て、余裕をもって討伐を終わらせ、早めに街に戻って来る。
実際に見てはいないが、討伐のお手本みたいな行動だ。
カペル達の後も続々と、採集を終えたり獲物をしとめた構成員たちが戻ってくる。
薬草採取の若手連中は、泥だらけ埃だらけになっていても頼んで来ない。
二百リーグも使ってしまったら、その日の稼ぎが殆ど無くなりかねないからだ。
一方、馬車からデカいオークを下ろしている連中は、俺を見つけると迷わず声を掛けてくる。
「マサ、持ち込みが終わったら頼むぞ!」
「あいよ、毎度!」
一人二百リーグだから合計千リーグ。
この五人だけでも日本円の感覚で一万円程度の稼ぎになる。
依頼の多い日には、この小銭稼ぎだけで五千リーグ以上稼げる日もある。
口の悪い連中は、汚れにたかる『ハエ』とか『ネズミ』とか呼んでるみたいだが、全く気にならない。
そんな連中よりも、俺の方が遥かに稼いでいるし、美味いもの食って、美味い酒飲んで、清潔な暮らしをしている。
召喚された直後は苦労もしたけれど、今は異世界生活を満喫中だ。
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