第28話 二級構成員カペル
※今回はカペル目線の話です。
「ちょっと、なんで帰しちゃうのよ!」
「いいから座って俺の話を聞け!」
マサを追いかけて店を飛び出していこうとするレリシアを引き留めて、なかば強引に座らせる。
「なによ、あんたが情報握ってるとでも言うの?」
「いいから少し口を閉じて話を聞け、でないと……お前死ぬぞ」
「えっ……?」
魔物とやり合う時のマジトーンでつぶやくと、ようやくレリシアは大人しくなった。
王都から来たエロい体付きの観光客だと思っていたのだが、とんでもなく厄介な女のようだ。
「伝聞記者のやり方なんか俺は知らねぇが、ここフェーブルで同じやり方を続けていたら、誰にも知られぬ場所で命を落とすことになるぞ」
「冗談でしょ?」
「冗談を言ってるように見えるか?」
マジトーンのままで問いかけると、レリシアはふるふると首を振ってみせた。
「でも、普通に組織の話をしているのを聞いたわよ。小競り合いして迷惑だとか……」
「俺は王都なんて行ったこともねぇし、王都の組織がどんなものかも知らねぇ。ただ、フェーブルには三つの組織が存在して、それは悪いことばかりじゃねぇんだよ」
「どういうことよ」
「どこの街にだって、出来の悪い奴や粋がってる連中はいるだろう? そういう連中を野放しにしとくと際限なく悪どい事をしでかすようになる。組織は、そういう連中の歯止めになってんだよ」
真っ当な商売をしているならば裏組織とか呼ばれないし、迷惑な部分は少なからずあるが、それでも社会から零れ落ちる連中の受け皿になっているのも事実だ。
「でも悪い事やってるから街の人達も話題にしてんじゃないの?」
「連中が全て正しいなんて言わないし、普通の人なら顔を顰めることもやってるだろう。けど、そうした行為を取り締まるのは憲兵の仕事だ。一般人が触れてもいい限度ってものがあるんだよ」
「限度ってなによ。そんなの分かる訳ないじゃん」
「だったら触れるな。少なくとも、今のあんたは限度を踏み越えちまってるぜ。裏組織のゴタゴタなんかに首突っ込まないで、秋祭りの記事だけ書いてりゃいいだろう」
「駄目よ。ありきたりな祭りの記事なんて意味無いわ。そんなんじゃ王都担当に戻れない」
どうやらレリシアは、何らかの事情を抱えているらしい。
「あんたの事情は分からねぇが、あんたの事情に他人を巻き込むな」
「別に、この街で伝聞にして広めるんじゃないわよ。王都で娯楽として発行されるだけで、こんな遠い場所には影響なんか出ないわよ」
「フェーブルで広まる広まらないの話じゃねぇんだよ。色々と聞き回って探っている奴と接触するだけでも事情を知ってる奴の立場は危うくなるんだよ。マサに何かあったら、あんた責任取れんのか?」
「責任って……」
「マサが殺されそうになったら、あんたが守れるのかって話だよ」
「そんなの……無理に決まってるわよ」
マサぐらい有能な掃除屋ならば、そう簡単に殺されたりはしないと思いたいが、ヤバい案件に深入りしたら事情が変わってくる。
あれだけ頑なにマサが拒絶するのだから、組織や憲兵隊からも釘を刺されているのだろう。
マサとレリシアは、これ以上関わらせない方が良い。
ただ、レリシアはまだ納得していない気がする。
「レリシア、お前いつまでフェーブルにいるつもりだ?」
「秋祭りが終わるまではいるわよ」
「そうか……そんじゃあ、フェーブルを出るまで俺と一緒にいろ」
「はぁ? なんでよ?」
「決まってる、お前の身を守るためだ」
「身を守るって、そんなヤバい事は……」
レリシアは何かを言いかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。
「心当たりがありそうじゃんかよ。お前、昼間からあの調子で色々と嗅ぎ回ってたんじゃねぇの?」
「昼間は違う格好してたから……」
「はぁ……その様子だとヤバい目に遭ってそうだな。たぶん、ここで俺と別れて宿に戻れば、途中のどこかで攫われっぞ」
「嘘っ……」
「まぁ、宿に帰るまでは何も無いかもしれないが、秋祭りが終わるまで無事とは限らないな」
「はぁぁ……いくら?」
レリシアは大きな溜息をもらすと、左手で頬杖をつきながら訊ねてきた。
「ん? なにがだ?」
「護衛の依頼料よ」
「別に要らねぇぞ」
「はっ、体目当てってことね」
「ばっか、ちげぇよ! 関わり合った奴が無駄死にするのが嫌なだけだ」
「タダで護衛してくれるの?」
「祭りは野郎一人で回っても面白くねぇからな」
「ふーん……夜も一緒に過ごすの?」
「一人でいる所を襲われても構わないっていうなら強要はしねぇよ」
「何それ、やっぱ体目当てじゃん」
「ちげぇよ! 一緒にいるけど行為に及ぶかは双方の合意に上でだな……」
「分かった。街を出る時までお願いするわ。夜の行為は……まぁ、その場の雰囲気で考えるわ」
「別に脅して強要しようなんて思ってねぇ。そこまで腐ってねぇからな」
どうせ祭りを見物するなら、少々ハプニングがあった方が面白い。
それに、こいつを野放しにすると街の連中に迷惑が掛かりそうだからな。
ご褒美が貰えるかどうかは俺次第。
まぁ、あまり期待しないでおこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます