第49話 構成員
ダービッドの考えは、まぁ理解できたが、もう一つ納得のいかないことがある。
「憲兵隊が動かないのは分かりました。じゃあ、何でギルドは動かないんですか?」
「はぁ? お前が動いてるじゃないか」
「えっ? はっ?」
「マサ、お前はギルドの構成員だよな?」
「そうですけど……」
「だったら、ギルドのために動くのは当然だろう」
どうも、また認識の齟齬があるらしい。
「えっと、俺はギルドの構成員だから、ギルドの人間として動くのは当然だ……ってことですか?」
「当たり前だよな?」
俺は、構成員=個人事業主で、ギルドはハローワークのような公的機関だと思い込んでいたのだが、構成員はその名の通りにギルドを構成する一員という扱いらしい。
「でも、ギルドマスターが力技で……」
「馬鹿言うんじゃねぇよ! あの婆さんが暴れたら、どんだけ被害が出ると思ってんだ!」
ギルドマスターに対する愚痴をちょっと口にしたつもりだったが、普段は落ち着いているダービッドが腰を浮かし掛けるほど血相を変えて否定した。
「そんなに凄いんっすか?」
「竜種を単独で討伐するような人間だぞ」
そう言われても、竜種がどの程度の魔物なのか実物を見たことが無いから分からない。
俺が首を捻っていると、ダービッドが付け加えた。
「この前三人で話した時に、建物までは潰さないようにするわ……なんて言ってただろう?」
「あれって、冗談抜きに建物ごと潰せるってことなんですか?」
「そうじゃねぇよ、あの婆さんが動けば、確実に建物が潰れるってことだ」
「えぇぇ……ホントですかぁ?」
「馬鹿、あの婆さんが、なんでこんな国の端っこの街にいると思う」
「王都で何かやらかした……とか?」
「まぁ、半分正解だ。王都には色々と悪事を働く輩が多いからな、婆さんの逆鱗に触れるような奴が現れてもおかしくねぇ。それで婆さんが動けば、建物の密集した王都ではどれだけの被害が出るか分からんだろう」
「それで、もしもの時でも被害が少なそうなフェーブルに置いてるんですか?」
「あとは隣国への備えだ。峠道を越えるしかないフェーブルに、あの婆さん一人を置いておくだけで、普通の軍隊じゃ逆立ちしても通れないからな」
聞けば聞くほど眉唾物の話だが、俺と一緒に勇者として召喚された連中が使っていた魔法の威力を考えれば、あながち嘘ではないのだろう。
「でも、少し加減してもらって、連中の建物だけにしてもらえばいいんじゃないんすか?」
「お前なぁ……この前の火事を思い出してみろ」
「あっ、そうか。一般市民も巻き込む可能性があるのか」
「奴らが根城にしてるのは、賭博場や娼館だ。客だったり娼婦を巻き込まずに潰すなんて器用な真似は、あの婆さんには無理だからな」
「かぁ、使えねぇ……」
「まぁ、その通りなんだが、本人に面と向かって言ったら本当に潰されるぞ。冗談抜きにやめておけよ」
まぁ、ダービッドがこれほど念押しをするんだし、先日の圧し掛かってくるような魔力を考えれば、ギルドマスターはイジらない方が良いのだろう。
「ギルドマスターが使えないのは良く分かりましたし、俺が動く理由も分かりましたが、俺だけ動いても出来る事は限られますよ」
「まぁ、そうだろうな。だが、お前しか動いていないとは限らないだろう」
「他にも誰か動いてるってことですか?」
「むしろ、プーロの連中を敵と認定しているのに、動いていないはずが無いだろう」
「そうなんですか? でも、俺は何も聞かされてませんよ」
「聞かせる必要が無いと判断したのか、それか聞かせない方が良いと判断したのか、いずれにしてもマサの掃除とは別に動いているはずだぞ」
確かに、ギルドの構成員は俺だけではないし、俺以外の人間が動いていないとは限らない。
だが、何も知らされていないのは、あまり気分の良いものではない。
「マサ、どうやらお前はギルドに不信感を抱いているみたいだが、少なくともギルドがお前を使い潰そうなんて考えていないことだけは確かだぞ」
「そうなんですか?」
「当たり前だろう、掃除だけで二級構成員になってる奴なんて、お前ぐらいのものだぞ。それだけギルドは、お前の掃除の腕前を買ってるし、下らない裏社会とのいざこざで失ったら困ると思っているはずだ」
「だったら、こんな汚れ仕事を押し付けなくても……」
「押し付けるか……俺らは、むしろお前が暴走して考え無しに力を振るわないか危惧していたぐらいだぞ」
「そうなんですか?」
「俺らが声を掛ける前に、お前が腹に据えかねてプーロの連中を消して回ったら、正体を掴まれる前にフェーブルから姿を消してたんじゃないか?」
「それは……」
確かに、プーロの連中には腹を立てていたし、ダービッドから掃除しろと言われていなくても、ボコられた時には掃除していただろう。
そして、ダービッドの言う通り、俺が召喚された人間だと気付かれる前に……と思ってフェーブルを離れていただろう。
「俺は、必要とされているってことっすか?」
「当たり前だ、ここは、お前の街だ」
お前の街……最初に言われた時はぐっと来たが、二度目になると感動が薄れてくる。
仲間意識を植え付けられて、際限無く働かされるのは御免だ。
「どこまで掃除すればいいんですか?」
「全部綺麗サッパリ掃除してもらっても構わないが、よく知らない奴まで掃除するのは納得出来ないだろう? 例の事件に絡んで、お前が掃除に必要を感じる奴だけで良い」
「そんなに都合良く掃除をするチャンスは来ないんで、状況次第ですよ」
「わかってる。クズだけ片付けてくれ。期限は切らないし、報告もいらん」
「やるとしても、出来る時にしかやりませんよ」
「それでいい、期待してるぞ、掃除屋」
事件に関わっていると確認出来ているプーロの連中は残り三人。
条件さえ整えば、掃除するのは難しくない。
上手く丸め込まれた気もしないではないが、この世界で生きていくには、何らかの組織に属する必要があるのも確かだ。
綺麗事だけで発展を続けられる組織が一番なのだろうが、そんな組織は稀だろう。
それに新しい街に移って、また一から生活基盤を整えていくのも正直面倒だ。
まだダービッドを全面的に信用した訳ではないが、フェーブルを出るのは一旦中止にしよう。
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