第22話 これからも見守っていてください
『アクアリアの歴史に残る伝説の五人を発見!』
この発見は即座に報告されて、アクアリアだけでなく中央政府の間でも大変なニュースになった。
五人の亡骸を正式に墓地に移す案も出たものの、それならば最後の朱里を除いて、当時から墓地が作られていたはずだと。
渚珠たち四人の意見は一致していた。一緒の場所で静かにこの島の行く末を見届けたかったのだろうと。それなら、天井に窓があったことにも理由がつく。
故人がこの形を望んだのであれば、最大限尊重するべきだと。また同時に判明した、彼女たちの子孫である渚珠たちが現場の保存を希望した。
詳しい考古学調査が行われて、部屋の構造や強度には問題がないこと。全員の遺体に事件性もないことが確認されたので、部屋の入口を別に作り直し、空調や電装品の更新が行われた上で、資料館としての保存が決まった。
再開発工事の際に発見されて預けられていた資料もこの部屋に戻されることになった。
「わたしたちのおばあちゃんて、すごい人たちだったんだねぇ」
最近はニュースでは落ち着いてきたものの、研究機関やメディア関係は連日のように押し寄せるし、この場所を訪れたいとの問い合わせもあとを絶たない。
やはり、人々にとって教科書にも載るこの場所の発見は特別なものなのだろう。
「責任重大です。渚珠ちゃん大丈夫?」
「大丈夫! 渚珠ちゃんはもう帰さないから!」
凪紗はインターン期間が終った後も、渚珠を正式メンバーに加えると既に部内発表をしていた。
「でも渚珠ちゃん? 他の遺言はなかったの?」
「うん。そのあとのことはわたしたちに任せるって。続けていくことも、閉鎖することも、みんなわたしたちの世代の決定に従うって」
あの端末に残された文書の再生に成功した弥咲は、朱里が最後に自分の子孫へ、つまり渚珠に宛てた部分を見つけ、彼女に渡していた。
『この文章を読んでくれているということは、みんなが再会できている証拠。見つけてくれてありがとう』
渚珠は工事が終わり、資料館として生まれ変わった部屋に降りた。
神聖な納棺室になるのと同時に、彼女たちの直筆で書かれた貴重な資料も置くために、その場所は厳重なガラス張りとして、照明、空調だけでなく水没もしないように工事が終わっている。
あの別室にあった救命艇も弥咲の手によって燃料などの危険物が抜かれ、壁の落書きとともに展示されている。
あれ以来、渚珠は定期的に全員分に供える花を交換することにしていた。
地上の一画には花畑も作り、行く行くはそこから切り取って交換することにしている。
この部屋に入るときは制服のスカートを正装に変える。彼女なりの敬意の現れだった。
「わたしたちが、ここを見つけて、あの手紙を読める日が来ると信じて待っていてくれたんですよね」
弥咲と凪紗が後でもう一度見直したこの島の設備図。
そこにはこの部屋の存在は記されていない。
しかしこの場所は何も設置されないように通路や配管までが避けて配置されていた。
「まだわたし、来たばかりですけど……。皆さんに負けないように頑張ります。あともう一人、必ず見つけます。見守っていてください」
つまりあと一人、五人目が揃ってこの新生ALICEポートも完成する。そこからどうするかはまだ考え付かない。
でも、仲間たちと考えればいい。ここに来るメンバーは200年もの間、再会を待ち望んでいる運命を持っているのだ。その奇跡をみんなで噛み締めていた。
『渚珠ちゃん、お昼のお客さまが間もなく着きます。お出迎えお願いできる?』
ホログラムモニターが立ち上がって、キッチンの奏空が見えた。
確か、昼食に見えられるお客さまが二組。あと、この部屋の取材が入っていた。
この部屋も滑走路横という場所柄、誰かの立ち会いという条件をつけてだけれど、希望者には公開もしている。
「了解です。直接向かいますね」
すぐこの部屋に戻ってくる。よし、異常は無し!
「じゃあ、行ってきます。また後ほどお願いします」
一度部屋の照明を落とし、渚珠は部屋を飛び出していった。
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