第99話 朝食の席ミーティング




 翌朝、普段の早朝点検を終わらせて、凪紗は前夜に二人が乗ってきた無人クルーザーの操舵室にいた。


「おはよう。なにしてるの?」


 渚珠の問いに、凪紗は手を休めずに答えた。


「理由がなんにせよ、あの二人が追われているなら、うちにきたってすぐに分かっちゃまずいでしょ? 航行データを少し削って、どこまで行ったとか、どこから来たかを忘れてもらわなくちゃね。もともとリース船なのだから、自分でホームドックに帰ってもらえばいいだけの話だし。乗り捨ての契約のときはこういうこともよくやるのよ」


 来たときのデータを確認したり、リース会社の情報を調べて、どこまで戻せばよいのかを調べて目的地を設定したり燃料を積み込む。


「今度は無人だから、使い捨ての予備燃料を満タンに載せておいても平気だからね。これだけあれば途中寄港も必要ないかな」


 準備を終えると、凪紗は一度クルーザーの全ての制御装置を切り、今度は渚珠と二人で前日使ったタグボートでALICEポートの管理区域の外側の公海上まで曳航していく。


 ここまで機能を停止された状態であれは、船のコンピューターも出発点はこの海の真ん中の場所からはじめて位置情報を割り出すことになり、ALICEポートまで行ったことは記録から抜け落ちてしまう。


「いいよ。係留ロープ外して。渚珠ちゃん飛び移るときに落ちないでよ?」


「もぉ、まだそのネタ使うんだからぁ……。そもそも弥咲ちゃんの起こした波だって凪紗ちゃん怒ってたじゃない」


 そんな会話をしているうちに、二人が乗ってきたクルーザーは自分の母港に戻るため無人のまま遠ざかっていった。




 悠介と可憐も含めた朝食の後、渚珠は全員そのままにミーティングを開いた。


 悠介に許可を貰い、可憐がマニュロイドであること。ALICEポートが目的地だったのは、それに関連して弥咲を訪ねてきたことだと話す。


「皆さん、驚かれないんですか?」


「ここのメンバーは、その位じゃびくともしません。そういったメンバーばかり集めていますから」


 本当ならそんな軽い話ではないけれど、悠介や可憐を納得させるにはそれで十分だ。



 二人の男女が泊まっているかなどの問い合わせに回答は一切しないこと。


 弥咲がしばらく作業に入ると言うこと。必要に応じて他のメンバーの力を借りることもあるとのこと。


「渚珠ちゃんは?」


「とりあえず、このあとは弥咲ちゃんのところに可憐さんをお連れします。あとはフロントにいるから、何かあったら教えて?」


 凪紗には訪問者の誘導、奏空には一般訪問者のアテンドをお願いすることになるから、この二人のことは表沙汰にならないよう、フロントで食い止める必要がある。


「分かった。あの……、都筑さん?」


「はい?」


 声をあげたのは意外にも美桜だった。彼女も心配そうに悠介を見ている。


「もし、お時間のご都合がよろしければ、私のところに来ていただけませんか? 診療所の方に詰めていますので」


「分かりました。部屋の整理を済ませましたら後で伺います」


 悠介は静かに頷いた。


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