第125話 空の世界へのナビゲーターは?
「今日は天候もいいので、午後からは実際に練習機に乗って、まずは慣れからスタートしてもらおうと思います」
桃香たちのチームの訓練も、前半の机上講義は予定を上回るペースで進んでいき、徐々に実際に海に入って行うものや、空を飛んでの訓練が中心になってきた。
海上の訓練は、どちらかといえば弥咲が中心になって担当してくれて、実際に救命胴衣を着用して海に入ったり、衣服着用のままの遊泳など、アルテミスの限られた水量のプールで行う訓練とはレベルが違う。
もちろん、渚珠を含めた他のALICEポートメンバーも常時一緒に水に入ってのことだから、溺れてしまうようなヘマはしないし、訓練メンバーたちも故郷では味わうことのなかった感覚を楽しんでいるようにも見えていた。
ただし、この日から始まる「空」の世界は違う。陸上や水上であれば、いざという時に救助を待つこともできる。
「離陸をしたら最後、何とかして自分の機体を着陸させなければなりません。それだけはしっかり覚えておいてくださいね」
渚珠が講義の最初に話していたし、他の四人のメンバーも口をそろえて「このALICEポートで操縦桿を握らせたら右に出る者はいない」と証言しているだけに、その言葉は重く感じる。
アルテミスでの訓練では、宇宙船の操縦はシミュレーターに加え実機の操縦も体験しているけれど、最大の違いは機体の外の風を考慮する必要はない。
六人が最初アクアリアに到着した時に渚珠が見せたような、風を読んで飛ぶことは初めての経験となる。
「まぁ、偉そうにこんなこと言ってるけれど、経験を積むしかないんだけどね」
訓練生が六人に対して、ALICEポートのメンバーは五人。管制塔を預かる凪紗が席を外すわけにはいかないし、奏空は掃除や調理などの作業があり、美桜は気分が悪くなった者が出た場合に備えるから、この訓練は必然的に渚珠と弥咲が行うことになる。
昼食のとき、奏空が食事を配りながら声をかける。
「午後はフライトの訓練だというので、少し少なめにしてあります。担当が弥咲ちゃんと渚珠ちゃんなので……。その分夕食は増やしますので、お許しくださいね」
そこに「えー!」という声はもちろん予想していたようで、
「あの二人に習えば、どこに行っても恥ずかしくないパイロットになれるよ。ちょっと厳しいかもしれないけど……」
「ちょっと、そこまで気をつけなくちゃならないの?」
桃香がぎょっとして教官の方を見ると彼も苦笑いだ。
「今日は初日だから、大したことはないと思うが、斉藤は覚悟しておいた方がいいかもしれないな」
「なんでです?」
「聞いてはいないけれど、斉藤の教官として付くのが多分松木だからだ。きっと容赦ないぞ?」
「あの渚珠がそこまでしますか?」
「それは、斉藤が松木の実力をまだ軽く見ているかだな……。まぁ、初日でどこまで突っ込んでくるか、お手並み拝見と行こうじゃないか」
「えぇ~?」
その時の言葉は数時間後に明らかにされることになった。
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