第54話 学生時代最後にできた友達




 保健室の扉が開いて、クラスメイトの大橋瑠璃るりが迎えに来た。


「松木さん、お迎えにきました」


「はぁい」


 二人で暗い廊下を歩いていく。


「あの……松木さん……」


「ほぇ?」


 彼女は階段のところで立ち止まった。


「これまでごめんなさい。私たち本当に酷いことしてた。修学旅行のあの時ね、途中から女子はみんな見ていられなかった。桃香ちゃんは自信あったみたいだけど。あの時の松木さんにはみんなショックだったんだよ。いつの間にか、誰も敵わない凄い人になってた。それなのに、みんな酷いことばかり言ってたなんて……」


「ううん。もういいよぉ。大丈夫。泣かないでぇ」


 ハンカチを差し出す。仕方ない。みんなが知っている自分は、いつも周回遅れで迷惑をかけていたことに間違いはなかったのだから。


「今回の事故もね、すぐに連絡が入って……。桃香ちゃんだけが『渚珠はそんなことで簡単に諦める子じゃない』って……。私も言いたかったけど、言えなかった。ズルいよね」


「瑠璃ちゃん……。もう大丈夫」


「名前、覚えててくれたの?」


 彼女は顔を上げる。こんな酷い仕打ちをして来たのに……と。


「わたしの大事なクラスメイトだもん。みんな覚えてるよ」


「間に合うかな……?」


「ほえ?」


「今からでも……、ずっと仲良くしてって言ってもいいかな……」


 顔を赤くしている瑠璃の手をそっと握った。


「これからも、よろしくね」


「松木さん」


「ううん。渚珠でいこうよぉ。わたしの友だちはみんな名前呼びだから」


「渚珠……ちゃん?」


「うん、ちょっと遠いけど、遊びに来てね」


「連絡先、すぐに送っておくから」


「お願いね。すぐに登録するから。さぁ、遅れちゃうよぉ」


 どちらが迎えに行ったのか分からない。二人で廊下を走って会議室に駆け込んだ。


「お、到着ですね。それでは始めますか」


「あ、はい。所長さん」


 そこまで来て、渚珠もようやくここが何を行う場所か気がついた。


 そして、どうもそれだけでは無いと言うことも。


「それでは、先に発令伝達を行います。松木渚珠さん、こちらへ」


「はい」


 署長と向かい合って立つ。


 気がつくと、彼女の仲間たちがモニターに映し出されていた。相互に映像が中継されているらしい。


「松木渚珠さん、ALICEポート所長を任命します。これまでのインターン、ご苦労さまでした」


 本当は昨日行われることになっていたのだろう。凪紗はとっくに渚珠を正式に迎え入れていたけれど、学生という立場上で籍を異動することができなかった。


 これで、渚珠は完全に大人の仲間入りをしたことになる。


「先日はさすがとしか言葉が出ませんでした。やはり、創始者のご子孫で、ご両親の血が流れていますね」


「はい」


「判定会議では、誰も異議を唱える人はいませんでしたよ。あの難しい立場のポートにおいて、これ以上の人材はないと。体にだけは気を付けてくださいね」


 任命書を手にする。きっと凪紗は自分で渡したかったに違いない。モニター越しに悔しそうにしている様子が見えた。


 それは帰ってから何度でもやり直せばいい。自分の居場所を用意してくれたのはあのメンバーなのだから。


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