第55話 新チーム発足の理由
任命書を受け取った渚珠が下がると、式は次に進んだ。
「えー?」
思わず口を押さえる。
渚珠が気づかなかったが、そこには六人、グレーの服に身を包んだ人物がいた。
その制服は自分も1年前に着ていた港湾学校のもの。しかし、問題はそこに並んでいた顔ぶれだった。
「桃ちゃん、なんで……」
桃香をはじめとして、クラスメイトで三人。あとは同じ学年で三人。
確かに、チームが出来るほど人数が集まれば、特別編成でクラスが組めるとあったけれど……。
渚珠がぽかんとしている間も、式は進んでいって、全員に入所許可が手渡されて終わった。
「渚珠……。隠しててごめん」
「わたしは驚いただけだけど、……桃ちゃん、怒られなかった?」
すべての行事が終わって、簡単な立食パーティとなったとき、二人は自然に歩み寄った。
「いろいろあったけど、最終的にはうちの親もポート係員だしね。話してみたら『やるだけやってみろ』ってさ」
確か、彼女はアテンダントのインターンを済ませていたはず。あれだけの高倍率のそれをもし蹴ってまでとなれば、そう話は簡単でなかったはずだ。
「いやね、あのアテンダントインターンはこの前段だったの。いわゆる適性検査代わりってやつ? 当然デビューなんてのも当分先でしょ?」
「えぇ? そりゃそうだけどぉ」
桃香の話には目を白黒させるしかない。しかし、この人選はどのように行われたのか?
「みんなさ、修学旅行の後に自然に集まって考え直した仲間たちだよ。このままじゃいけないって」
「いつか、俺たちのポートを作って、松木さんを驚かせようって事になってさ」
「みんな、恥ずかしくなっちゃったんです。だから、特別編成が組める人数を集めたんです」
六人いれば、そこで1クラスが組める。
もちろん、希望すれば誰でもとは行かない。それぞれ適性検査や試験を乗り越えてここに来ているはずだ。
「渚珠、ALICEポートには敵わないけど、うちもきっとこの仲間でやってみせる。その時には肩を借りるわよ?」
「おや、松木さんところにすでにアプローチですね?」
渚珠には辞令を、他のメンバーには入所許可証を渡してくれた所長が来ていた。
このメンバーで、これから担当する内容を分担し、小型ポートを運用していくためのコースで半年から1年間のトレーニング入っていくとの事。
「きっと、松木さんの所の力が必要になると思います。やはり異常時に対応できるポートやスタッフは今後も増やさなければなりません」
「訓練でも実習でも。その時は、ぜひ協力させてください。わたしたちもまだ未完成ですから」
渚珠は一人一人と握手を交わした。
「たった四人であんな非常時ミッション片付けて、まだ未完成って言われたら、うちらどんなハイレベルな要求されるんですかぁ?」
「まぁ、松木の所に並ぶなら少なくとも誰かは一等航行士取らなきゃだめだな」
「げー! あれメチャ難しいじゃん!」
「でも、ここにいるじゃん。この認識票付けているのが」
桃香が渚珠の胸元を指差す。
「じゃぁ、桃香に決定な。松木に負けたくないだろ?」
「はっ!? 渚珠……、あたしで本当に取れると思う……?」
恐る恐る聞く彼女の様子にみんなで笑う。
「桃ちゃんはお父さんが整備士だもん。そういうところ個人レッスンで教えてもらえるのはアドバンテージだよ。弥咲ちゃんと凪沙ちゃんもビシバシ鍛えてくれると思うし?」
「ALICEの皆さんがバックアップとは、最高ですな。今回の事故で、いろいろと思うところがあった職員が多かったと聞いています」
「やっぱ桃香が適任だな」
「はぃ……。お手柔らかにお願いします……」
再び笑ったところに、所長は真面目な顔で教えてくれた。
事故発生から渚珠たちが通信再開までこぎ着けたまでの時間は30分足らず。一方で完全な通信途絶を想定したマニュアルが整備されていないことが露呈し、再整備にはALICEポートのノウハウや各機器類の多重化の検討がすでに始まっているし、その整備委員会にはあの時にコックピットで汗を一緒にかいた二人が名を連ねているとのこと。
「やっぱすげえや……」
「うちにはいろいろ生のデータ残ってるから、自由に使っていいよ」
「うちの教官、誰にしましょうかね。一番厳しい担当をつけますか」
所長も目を細めて新チーム発足を喜んでいるように見えた。
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