第56話 姉妹港を作ろうよ! 約束!




「ふぅ……。おわったぁ……」


 がらんとなった部屋で大きく息をついた。


 カーテンを開けて、窓から外を見る。アクアリアでは真っ青な空が広がるが、ここでは灰色の天井しか見ることができない。


 そう、こんな動作も、本当の空を知ることが出来ていたからだ。


 昨日は驚きの展開にも関わらず、やはり体は休憩を渚珠に要求した。


 帰ってきてから、朝まで目を覚ますこともなかった。


 朝、学校に向かう佑都と佳奈を見送り、最後の部屋の片付けを始めた。


 大きな家具と、佳奈が残してほしいと言っていたカーテンや調度品を残して自分の私物を全て整理した。


「なんだか、本当に寂しいわね」


「明日から佳奈ちゃんのお部屋ですから。本当にお世話になりました」


 この家にも迷惑をかけてしまった。最後の事故にしても、乗客だった佑都と佳奈の家だということ、さらに渚珠が身を寄せていたことも重なり、しばらく記者も帰らなかったそうだ。


 夕方、渚珠を入れた一家の食事で、渚珠はこれまでのお礼を口にした。


「どこまでやれるのか、自分でも分かりません。でも、精一杯頑張ってみます。佑都くん、佳奈ちゃん、元気でね。また遊びに来るからね」


 二人とも、渚珠はすでに普通の家族ではないことを理解していた。それでも、自分たちにはそんなことを感じさせない優しく頼りになる姉だった。


 毛布を1枚だけ借りて、部屋に戻ってくる。


 明日は当初の予定通り、正式に着用を認められた制服を着て出ていく。目立つだろうが、それは仕方ない。残っていた私服や中学の制服も全部荷物に入れた。


 外が消灯時間になったとき、窓を叩く音がした。


「いいよ」


 この密会も最後だ。桃香は半べそをかきながら隣に座る。


「本当に片付けちゃったんだ」


「うん。わたしも卒業だよぉ」


 仮に、渚珠がALICEポートという場所を見つけることができなかったとしても、彼女は15歳の卒業をもって一人で暮らさなければならないとずっと思っていた。


「渚珠がね……、必死に頑張ってるのを見ちゃったら、申し訳なくて……。最初はあの倍くらい集まったけど、残ったのはギリギリの六人。だから、みんな自分がドロップアウトしないようにって必死」


「そんなぁ」


「でね、いろいろ聞いてみたんだ。渚珠がずっと休みも取らずに訓練してたこととか。訓練内容を聞いても凄くて……。渚珠の教官にも会ったよ。誰よりも真面目に一生懸命やってたって……」


 やはりもって生まれたものは仕方ない。一人でのスピードはないが作業の丁寧さは折り紙つきだし、作業を補佐する役割ならどれだけ早くても間違えることもない。これは弥咲の作業を手伝う時に発揮することで証明ずみだ。


「渚珠……、分かってなくてごめん。休みに遊べなくて付き合い悪いなんて言ったこともあったし。それでさ、渚珠が一人で頑張ってたのに、自分たちだけいいのかって……」


「いいんだよぉ。これはわたしが自分で選んだんだから」


 自分で選んだ道だから、誰とも比較はしていないし、大変だったけど納得していた。何より桃香以外にも自分を受け入れてくれる仲間も出来た。


「渚珠とずっと一緒にいるって約束して、守るんだって思っていたら、いつの間にかあたしが渚珠を追いかける方になっちゃった。正直ね、親が敷いてくれた進路でいいのか迷ってたし。話し相手もいなくなったら気合いも入らなくなって……」


「そうだったんだぁ……」


「修学旅行のあと、ますます惨めになっちゃって。そしたら、人数が集まれば、新規のポート開設計画に乗れるってことになってね。これにしようって決めたの」


 やはり、アルテミスだけでなく、火星マールスも本格的に可動してきたことにより、連絡船の大型化も進み、その運行準備にかかる時間が長くなってしまう。実際に大多数の乗客が搭乗するハブポートとは別に、メンテナンスや緊急時のためのサブポートは今後も各所で増やしていくと聞いていた。


「それはアクアリアなの?」


「まだ決まってないみたい。だったらいいなとは思うけどね」


「そっかぁ……。本当に桃ちゃんがリーダーになるのかな?」


「それもまだこれからだって。でも言い出したのがあたしだしね。そうなっちゃうかもしれないね」


「大丈夫。普通はそこまでたどり着くのも本当に大変なんだよ。きっと、もう話は相当先まで行ってるはずだよ。うちでお手伝い出来ることは何でもするから」


 恐らく正式な発表にはなっていないだろうが、新規ポートの増設計画は見ることができるだろう。その中に桃香の名前が入っている可能性は十分にある。


「うちがうまく行ったら、姉妹港になれるかな?」


「そうだよぉ。そうなれば楽だもんねぇ。融通もいろいろ出来るし。やっぱり頑張ってもらわないとぉ」


 二人の話しは時計が日が変わったことを告げてもしばらく続いた。


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