第73話 最初で最後の面接だから
夜、渚珠が最後の見回りを終えて戻ってくると、これまで人気がなかった部屋に明かりが点っていた。
美桜の訪問にあわせて、急遽、客室の方から家具を入れたものだ。実際に決まれば自分で好きな物を入れることが出来る。
「美桜ちゃん、気に入ってくれたかな……」
この不安は、美桜にも直接告げてしまったけれど、渚珠の最大のプレッシャーでもある。
他の事案なら、いくらでも代替案を見つけたり、リトライする事だってできる。しかし美桜に入所してもらうのは話が別だ。
たった一人、200年の時を越えてようやく会うことが出来た彼女と離れてしまった場合、もう他の策がない。
正直なところ、待遇面で言えばもっと良い条件を提示してくる医療施設もあると思う。ネームバリューだけではどうにもならない部分もある。
もっとも、夕食までの雰囲気は悪いものではなかったし、渚珠の信頼する仲間たちでそんなドジをするようなことはないだろう。
あとは美桜の決心をもらえるかどうかだ。
「渚珠ちゃん?」
「奏空ちゃん」
「眠れないの? 遅いなって思って」
「あ、ごめんね。あんまりウロウロしてると凪紗ちゃんにもバレて迷惑かけちゃうし」
今日は美桜以外には宿泊客もいない。久しぶりに全員が部屋でゆっくり休むことが出来る夜のはずだった。
奏空もベンチの隣に座って、星空を見上げる。
「ねぇ、渚珠ちゃんや美桜ちゃんがいたところは、もっと星がきれいに見えたんでしょ?」
「うーん、どうなんだろう。数だけならそうかもしれない……。でもこうやって瞬いたりすることはなくって、本当に光る点でしかないし。そうそう、流れ星も無いからね。だから、どっちが好きかって言えば、わたしはここから見上げる空の方が好き」
今度、次に美桜を送りに行くときは、奏空に同伴してもらおうと思っていた。
「明日、新しい医務棟のお話しするんでしょ?」
「うん、それこそ奏空ちゃん一緒にお願いするよぉ」
そこは、これまで唯一看護師の資格を持つ奏空が会話に入ってもらわなくてはならない。
「どう? 本当にお願いしちゃうつもり?」
「うん、良いと思う。部屋を拡張するよりはいいと思うんだよね。通路で結んであれば。だから、オッケーしちゃうつもり」
「それが、美桜ちゃんへの誠意って感じかなぁ」
「うん……」
奏空がしばらくして、口を開いた。
「渚珠ちゃんが来たときの凪紗ちゃんもそんな感じだった。しかも、初日のドボンがあったでしょ? インターンだからすぐに帰らないのは分かっていたけれど、もしかしたらってずっと心配してたみたいでね」
「そんなこともあったねぇ。でも、それでどうこう思うことはなかったし、あの日の夜には、逆に不合格って言われないか、そっちの方が心配だったなぁ……」
そんなこともあって、凪紗は彼女が着任してから異例の早さで正式メンバーへの内定を発表していたことを思い出す。
「だから、美桜ちゃんも大丈夫だと思う……」
「そっか……。そうだといいなぁ。わたしには初めての面接みたいなもんだから……。あ!流れ星!」
「いいことあるよ!」
偶然にも砂浜の二人が見た流れ星を部屋の窓を開けて美桜も見ていたなど、渚珠も奏空も知るはずがなかった。
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