第74話 全員が揃えばこの場所も変わる!
翌朝、渚珠と奏空に美桜を加えた三人は、宿泊棟の隣に面した空き地に立っていた。
「本当に……、そんなことをしてもいいんですか?」
「このスペースは安全な場所だし、今のところ何も建つ予定はないから、美桜ちゃんの診療所を作れればなって。予算の話は気にしなくていいから、自由に進めてもらっていいよ」
最初に渚珠は美桜に告げた。医療機関となれば費用も普通の建物より高額になるものの、その話はすでにある程度付けてある。
なにより、渚珠は美桜に一つの計画を話していた。
あの説明会への道中、凪紗と二人で計画をまとめ、凪紗が一人先に帰ったのもそれを説明するためで、『重要な位置を占める美桜が一緒になるならば』という条件で、その計画は決裁をもらっていた。
「ALICEポートを一般ユーザーに解放」するという大転換だ。
これまで、本来のポートとしての利用の他では、一部の宿泊や食事の利用に制限されていたこの島の立ち入りを大幅に緩和するという施策だった。
その中には、主に三つの内容が含まれていた。
一つ目は凪紗と弥咲を中心とした、補給・整備ドックの拡張と、休憩用のマリーナの増設など。
二つ目は従来路線を継続した宿泊施設と、食事を提供するレストランやカフェの拡張。
これは主に渚珠と奏空の担当となる。つまり、マリーナに船を泊めて宿泊や食事に入島する事が気軽に出来るようになる。
最後の目玉としては、公開診療所の開設だった。
弥咲という一流のメカニックだけでなく、美桜という、最高の天使を擁しながらこれを身内にとどめておくのは勿体ないし、計画を聞いた二人は是非やりたいと即座に反応したくらいだ。
海底のマリンシティにはもちろん各施設も整っているが、逆に海上に点在する施設や民家からは、このマリンシティまで行かなくてはならないという不便が生じているのも事実だ。
そこで、二人が一般に向けて開業するということになれば、この周辺住民としては非常にありがたい話になる。
名前としては誰もが知るほどに有名だけど、旅行者でもなかなか敷居が高かったポートからの転換。
過去の資料を調べてみると、初代ALICEポートに変わる直前の宇宙港時代にはこれら全ての機能をすでに持っていた。
人々が移住を完了し、一般の訪問者がいなくなったことで、これらの業務を一時的に停めていただけの話で、その痕跡は最初にこの島に再上陸を果たした凪紗や弥咲はその施設跡を参考にして現在の設備や建物を造り上げている。
だから、これらを再稼働させることは、大まかには折り込み済みの計画だった。
そうは言いつつも、わずか五人のメンバーでどこまで出来るのか。それは可能な範囲というのが大前提だ。
もちろん、一般人が立ち入っては危険な部分もあるから、そこは明確に分ける必要があるし、フェンスや監視装置の更新などの設置も必須となる。緊急着水などで全員の手が必要なときは立ち入り規制なども発生しうるだろう。
急ぐ話ではないので、まずは五人が揃って全員の合意が取れれば、そこから一つずつ始めていけばよいと、拡張計画にも理解が得られた。
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