第63話 五人目のメンバー候補は…




渚珠なみちゃん、メール来てるよ』


「はぁい。ありがとぉ」


 宿泊客の夕食の用意をしていた松木まつき渚珠なみは、作業用のインカムで原田はらだ凪紗なぎさからの呼び出しを受けた。


「凪紗ちゃん開ける?」


『ううん。親展だって。渚珠ちゃんのIDが必須になってる』


「わかったぁ。奏空そらちゃんちょっと外してもいい?」


「うん、大丈夫」


 一緒に作業をしていた奏空に声をかけて一度自分の部屋に戻った。


「なんだろぉ……。え、移民局本部?」


 それまでの空気が変わり、渚珠の顔が引き締まる。しかも、IDカードと生体認証による二重ロックを解除しなければ開封も出来ない。


 手続きを終えて、メールを開いた。


「えっ……。ホントに……?」


 内容を読んだ渚珠の顔に緊張が走る。


「凪紗ちゃん……。ちょっといい?」


 再び、ホログラムモニターで凪紗を呼び出す。


『ど、どうしたの?』


 あまりにも真剣な顔つきの渚珠に、凪紗の方が慌てた。


「んと……」


『分かった、とにかくすぐに行くよ』


 モニターが消えて3分後、凪紗が走り込んできた。


「どんなのが来たの?」


 彼女のこんな様子の原因がさっきのメールにあったことは間違いようもない。


「こ、これ……」


 まだ開きっぱなしになっていた画面を読んでみる。


「これホント?」


「こんなメールで、ロックつきにしてまで嘘はないと思うよ」


「そう言えば、渚珠ちゃんが見つかったときもこんな感じだった」


 そう、渚珠がインターンに応募したときにも、同様のメールが凪紗に送られていた。





 宿泊客の食事が終わったあとの、渚珠たちスタッフの食事の時間。


 二人は長谷川はせがわ奏空そら秋田あきた弥咲みさきにも届いたメールの話をした。


「本当に?」


「ついに見つかったか」


「そうなんだよぉ。しかもお医者さんだから、完璧な話でねぇ」


 取り急ぎ、いま分かっていることは、今年ミドルスクールを出ていることから、同じ15歳の女の子であること。正式に医師として登録されていることなどだ。


「近く、強制移住に関連して就活セミナーがあるらしくて、そこに来るみたい。最初にコンタクトするならそこしかないかなって話してたとこ」


「ねぇ……、あの条件は大丈夫なの?」


 奏空の視線の先には、額に丁寧に入れられた1枚の写真がある。そして、その隅には200年前の日付が添付されていた。


 このALICEポート、初代の発足の日に撮された五人の女性たち。彼女たちが後世に託した願いを今の渚珠たちは受け継いでいる。


 そう、ここに今揃っている四人は、全員がこの写真のメンバーの子孫だ。彼女たちの遺言とも言える、このALICEポートの再建計画において、再起動のメンバーは、この想いが受け継がれた人材であることが条件となっている。


 つまり、新規メンバーになるためには、この運命的な条件を突破しなければならない。


 全員が渚珠の顔を見た。もし違うなら、せっかくの話も進むことが出来ない。


「…………、うん。クリアしてるよ」


 彼女も、真っ先にそれを確認した。もちろん、そんなことが分かっていない移民局ではない。


 渚珠に連絡を入れる前、すでにその調査は終わっていた。


「……お祝いだな!」


「あの空き部屋もう一度掃除しておかないと」


 既に四人の気持ちは固まっていた。あとは、本人の希望とマッチングできるかの部分なのだと。

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